生徒会長と私
第4話
「ごめんなさい」と放課後の生徒会室で、むすっとした表情の翼先輩の前で4人で頭を下げる。
「………」
黙って私たちを見ているが翼先輩の眉間にしわが寄っている。
怒っているのは間違いないみたい。
どんなことを言われるのか予想をして、対策をしようということになり、
翼先輩と同じ学年に兄弟のいる同級生を探して、3人から証言を得た結果。
「無口で何を考えているかわからない人」
何も役に立たない答えだった。
4人で話し合ってとにかく謝ろう。犯罪を犯したわけじゃないし、いたずらで済むはず!
と結論を出して4人で生徒会室に来た。
「許してあげたら。翼ちゃん」と助け船を出してくれたのは、
生徒会副会長の白砂(しらすな)要先輩だった。
男の人だが長いストレートの髪に、細い目、細身の体に、
黒のブレザーで後ろから見ると女性と間違えそうな身体をしていた。
翼先輩はじろっと、怒ったような視線を白砂先輩に向ける。
あんな鋭いトゲのような視線を向けられたら、心臓がぎゅっとなりそうだ。
「怖いなぁ。そんな睨んで」と全く意に介していない白砂先輩。
この瞬間を楽しんでいるかのように目じりが下がっている。
「女子たちのかわいいいたずらなんだからさ」と意にも介さない様子で会話できる白砂先輩を尊敬の目で見る私たち。
「そうもいかんだろう」と不機嫌そうな視線で白砂先輩を見る。
「どうして? カフェでナンパってよくある話じゃない」
「よくある、なしの話じゃない。うちの生徒の行動で店に迷惑をかけたんだ」
「相変わらず固いなぁ」
「お前がいい加減なだけだ」
「じゃあさ。どうするの?」
「それを考えているんだ」
「?」
「学校内のことなら校則があるが、あれは学校外のことだ。
店長に謝ったが笑って『遊びなんだから許してやれ』と言われてた」
「じゃあ、許してあげれば?」
「いや。そうもいかない。少なくとも、周りの人間に迷惑をかけた」
「ちょっと注文が遅れただけでしょう」と肩をすくめて見せる。
「それでも迷惑は迷惑だ」
「もしも、他校の生徒だったら? 何もできないだろう」
私たちの瞳に光がやどった。うまくすれば何もしないでOKになるのではないかと期待をする。
「ほおって置いて、今度はもっとひどいことが起きたとき、どうするつもりだ? 普段からルールも守れない生徒たちと思われる」
白砂先輩が大きくため息つく。
「あのさぁ。僕が翼にカフェでアルバイトしてみたらって言ったの覚えている?」
「えー! そうなの!」と4人同時に声を上げて翼先輩ににらまれ口を塞ぐ。
「見ての通り、この生徒会長は無口で無表情。笑わないんだ。昔から」と白砂先輩が翼先輩に顔を近づける。
「何が言いたい?」と翼先輩の顔から怒りが見えない。
「僕がカフェの店員の仕事を進めた理由を忘れた?」
「………」
4人で白砂先輩の次の言葉を待つ。この無表情の生徒会長様が何を思って、
笑顔が必要な接客業をする羽目になったのか、興味が出て来ていた。
「生徒会長になってから、クラスのみんなとの間に超えられない壁? があるからそれを壊したいって相談したよね」
「そうじゃない。怖がられているようだから協力しろと言ったんだ」
「同じじゃない」
「違う」
「でも、それ聞いて、そんなことで悩んでいるんだって大笑いしたけどね」
「おい!」
白砂先輩が笑うたびに翼先輩の周りの温度がマイナス10ずつ下がっているような冷たさを感じるのだが、
白砂先輩は全く意に介する様子がない。
「とにかく、自然な笑顔ができなくて、接客業でもすれば身につくかと思って
僕の母親がオーナーのカフェにバイトで行ったんだけど………ますますひどくなったみたいだね」
「お前の言うことはもうきかんことにする」
翼先輩の声は地獄の底から聞こえる悪魔かと思うくらい低く、黒いオーラに包まれていた。
「じゃあ、取引をしようか……」
白砂先輩が私たちを見てニヤっと笑う。
私たちの背筋がゾクッとした冷たさを感じた。4人で固まって手を取り白砂先輩の次の言葉を待つ。
翼先輩ははっきりとわかりやすい怒りが怖いが、
白砂先輩の怖さは笑顔の中に隠れた嗜虐性にあるのだとこのとき悟った。
「これから一ヵ月の間に、翼を心の底から笑わせることができたら、この一件は無かったことにする」
「はあ?」と翼先輩が白砂先輩を睨むように視線を向けた。
「いい提案だろう」とニコニコと子どもの無邪気さの中に残酷さを混ぜ合わせたような笑顔を向ける白砂先輩から
初めて見たときの優しそうな印象は砕け散った。
「いいわけあるか」
「どうして? 学校の外のことだし、
カフェの店長が許しているし、罰ゲームでの告白をしたからって咎めることはできない。
したがってこの子たちに罰を与えることはできない。
でも、何もしないままじゃ、君の気が済まない。だから、
君を笑わせることを条件にすれば、この子たちは苦労するだろう」
「………」
むすっとしたまま白砂先輩を見ている翼先輩。
私たちはどうなるのが一番いい結果になるのか、口出しできずに見守るしかない。
「何より、君の望みも同時に叶えられる。悪い話じゃないだろう」
「………」
翼先輩が無表情になって考えているのか、
腕を組んで私たちと白砂先輩を交互に見て眉間にしわを寄せて考えている。
あの顔を笑顔にできたなら、私はその時、どんな気持ちになるんだろう。
翼先輩の答えを待つ間、ほんのつかの間でも私は翼先輩の笑顔を想像してしまった。
この後、どんな辛い現実が待ち構えているかも知らずに。
数分後、翼先輩の口が開いた。
「もう一度、お前の言うことを聞いてみよう」
苦難の道のりの始まりを告げる声が生徒会室に響いた。
「………」
黙って私たちを見ているが翼先輩の眉間にしわが寄っている。
怒っているのは間違いないみたい。
どんなことを言われるのか予想をして、対策をしようということになり、
翼先輩と同じ学年に兄弟のいる同級生を探して、3人から証言を得た結果。
「無口で何を考えているかわからない人」
何も役に立たない答えだった。
4人で話し合ってとにかく謝ろう。犯罪を犯したわけじゃないし、いたずらで済むはず!
と結論を出して4人で生徒会室に来た。
「許してあげたら。翼ちゃん」と助け船を出してくれたのは、
生徒会副会長の白砂(しらすな)要先輩だった。
男の人だが長いストレートの髪に、細い目、細身の体に、
黒のブレザーで後ろから見ると女性と間違えそうな身体をしていた。
翼先輩はじろっと、怒ったような視線を白砂先輩に向ける。
あんな鋭いトゲのような視線を向けられたら、心臓がぎゅっとなりそうだ。
「怖いなぁ。そんな睨んで」と全く意に介していない白砂先輩。
この瞬間を楽しんでいるかのように目じりが下がっている。
「女子たちのかわいいいたずらなんだからさ」と意にも介さない様子で会話できる白砂先輩を尊敬の目で見る私たち。
「そうもいかんだろう」と不機嫌そうな視線で白砂先輩を見る。
「どうして? カフェでナンパってよくある話じゃない」
「よくある、なしの話じゃない。うちの生徒の行動で店に迷惑をかけたんだ」
「相変わらず固いなぁ」
「お前がいい加減なだけだ」
「じゃあさ。どうするの?」
「それを考えているんだ」
「?」
「学校内のことなら校則があるが、あれは学校外のことだ。
店長に謝ったが笑って『遊びなんだから許してやれ』と言われてた」
「じゃあ、許してあげれば?」
「いや。そうもいかない。少なくとも、周りの人間に迷惑をかけた」
「ちょっと注文が遅れただけでしょう」と肩をすくめて見せる。
「それでも迷惑は迷惑だ」
「もしも、他校の生徒だったら? 何もできないだろう」
私たちの瞳に光がやどった。うまくすれば何もしないでOKになるのではないかと期待をする。
「ほおって置いて、今度はもっとひどいことが起きたとき、どうするつもりだ? 普段からルールも守れない生徒たちと思われる」
白砂先輩が大きくため息つく。
「あのさぁ。僕が翼にカフェでアルバイトしてみたらって言ったの覚えている?」
「えー! そうなの!」と4人同時に声を上げて翼先輩ににらまれ口を塞ぐ。
「見ての通り、この生徒会長は無口で無表情。笑わないんだ。昔から」と白砂先輩が翼先輩に顔を近づける。
「何が言いたい?」と翼先輩の顔から怒りが見えない。
「僕がカフェの店員の仕事を進めた理由を忘れた?」
「………」
4人で白砂先輩の次の言葉を待つ。この無表情の生徒会長様が何を思って、
笑顔が必要な接客業をする羽目になったのか、興味が出て来ていた。
「生徒会長になってから、クラスのみんなとの間に超えられない壁? があるからそれを壊したいって相談したよね」
「そうじゃない。怖がられているようだから協力しろと言ったんだ」
「同じじゃない」
「違う」
「でも、それ聞いて、そんなことで悩んでいるんだって大笑いしたけどね」
「おい!」
白砂先輩が笑うたびに翼先輩の周りの温度がマイナス10ずつ下がっているような冷たさを感じるのだが、
白砂先輩は全く意に介する様子がない。
「とにかく、自然な笑顔ができなくて、接客業でもすれば身につくかと思って
僕の母親がオーナーのカフェにバイトで行ったんだけど………ますますひどくなったみたいだね」
「お前の言うことはもうきかんことにする」
翼先輩の声は地獄の底から聞こえる悪魔かと思うくらい低く、黒いオーラに包まれていた。
「じゃあ、取引をしようか……」
白砂先輩が私たちを見てニヤっと笑う。
私たちの背筋がゾクッとした冷たさを感じた。4人で固まって手を取り白砂先輩の次の言葉を待つ。
翼先輩ははっきりとわかりやすい怒りが怖いが、
白砂先輩の怖さは笑顔の中に隠れた嗜虐性にあるのだとこのとき悟った。
「これから一ヵ月の間に、翼を心の底から笑わせることができたら、この一件は無かったことにする」
「はあ?」と翼先輩が白砂先輩を睨むように視線を向けた。
「いい提案だろう」とニコニコと子どもの無邪気さの中に残酷さを混ぜ合わせたような笑顔を向ける白砂先輩から
初めて見たときの優しそうな印象は砕け散った。
「いいわけあるか」
「どうして? 学校の外のことだし、
カフェの店長が許しているし、罰ゲームでの告白をしたからって咎めることはできない。
したがってこの子たちに罰を与えることはできない。
でも、何もしないままじゃ、君の気が済まない。だから、
君を笑わせることを条件にすれば、この子たちは苦労するだろう」
「………」
むすっとしたまま白砂先輩を見ている翼先輩。
私たちはどうなるのが一番いい結果になるのか、口出しできずに見守るしかない。
「何より、君の望みも同時に叶えられる。悪い話じゃないだろう」
「………」
翼先輩が無表情になって考えているのか、
腕を組んで私たちと白砂先輩を交互に見て眉間にしわを寄せて考えている。
あの顔を笑顔にできたなら、私はその時、どんな気持ちになるんだろう。
翼先輩の答えを待つ間、ほんのつかの間でも私は翼先輩の笑顔を想像してしまった。
この後、どんな辛い現実が待ち構えているかも知らずに。
数分後、翼先輩の口が開いた。
「もう一度、お前の言うことを聞いてみよう」
苦難の道のりの始まりを告げる声が生徒会室に響いた。