二匹の神使な妖獣からの溺愛が止まない

狐憑き

~煌~

7歳のときに一目惚れした少女。



ホタルを見せると涙の顔に笑顔をいっぱいに浮かべていた。



その少女ともう一度会いたいと願っていた。



その少女が今、大人になって目の前にいる。



「守るって言ってもね~、この通り何の変哲もない暮らしだからあんたたちの仕事、別にないと思うよ」



親父が帰ってから、ソファに座る彼女のそばに侍る俺たちは半笑いでそう言われた。



それでも、こうしてそばに立てているだけで俺は嬉しい。



親父から、『惺音様の神使になる気はないか』と言われたとき、こんなチャンス二度とないと思った。



俺なんかが惺音と近づく機会があると思ってもみなかった。




すぐに親父の提案を受け入れて。



だけど『惺音様』と言う気にはなれなかった。



俺の中ではいつまでも、あの日の泣きべそを書いていた幼い惺音が惺音のイメージそのもので。



だけどいつの間にかこんなに大きくなっていた…。



綺麗な黒い長い髪はより一層惺音を大人に見せた。



まあ俺と同じだけ成長してるんだから当たり前っちゃ当たり前。



俺は自分の中の稚拙な考えに苦笑する。



それでも、惺音は俺にとってずっと忘れられない人で。



妖は、例外はあれど基本的に生涯でたった一人しか愛さない。



7歳の時に心奪われてから、俺の人生は惺音のものになったんだ…。



そんな惺音は人使いが荒い。



「今すぐ桜が見たい」

「はあ? あと2週間くらいで見れんだろ、我慢しろよ」

「いいからなんとかして!」



というわけで俺と青蘭でありったけの妖力を屋敷の庭の桜に送り込み、開花を早める…。



こんなことしていいのか…?



っつか惺音の妖力なら俺たちがこんな頑張らなくても一瞬だろ…。



だけど、庭に桜が咲いたのを見て惺音は満面の笑顔になった。



その笑顔は幼いあの日と重なり、やっぱり俺の心をとらえる…。



かと思いきや…。



「みんなでお花見パーティーしよ! すぐ準備して!」



またこうやって無茶ぶりを…。



厨房のシェフたちやメイドに頼み、急いで花見の準備をさせる…。



親父もここで働いている人たちも、いつもこんな無茶ぶりに耐えてたのか…。



尊敬…。



シェフやメイドたちが用意してくれた料理や和菓子、お茶なんかを持って庭に並べてやると、惺音は喜んだ。



持っているスマホで写真を撮ってる。



「惺音ちゃんは人使い荒いね~」



青蘭がニコニコと笑いながらそう言うので俺は隣でウンウンとうなずいた。



惺音にキッとにらまれるので、2人で首を縮めた。
< 8 / 376 >

この作品をシェア

pagetop