二匹の神使な妖獣からの溺愛が止まない
そんなある日、今日は4月からの高校入学のために指定の制服業者が屋敷まで採寸に来ていた。



「久しぶり~、今年もありがとね」

「こちらこそ、今年も惺音ちゃんの成長が見られて嬉しいよ」



普通の人間で、惺音の正体も知らないが、惺音とは小さいときからの知り合いの業者らしい。



初老のその爺さんは、何年もこの仕事を一人で切り盛りしてきたんだろうと思わせる。



だが…。



「あれ? 今年は(いさお)チャン一人?」



惺音が爺さんに聞いた。



どうやらいつもは他に何人か来ているらしい。



「そうなんだよ…。ここだけの話、従業員たちが何人か病気になっちまって…」

「病気?」



惺音が聞くと、爺さんは声を潜めた。



「精神病みたいなものなんかね…。みんな同じ病気になるんだからなんかの感染症とかも疑ったんだが…。訳の分からないことを言い出したり、妙な行動をしたり…油揚げを出せなんて言うやつもいたから狐に憑かれたんじゃないかと妙なことも思ったけどね。とにかくそれで、最後にその病気になった奴がビルの上から落っこちて亡くなっちまって…。そこからその病気は止まったんだが、心配でみんなのことは一度休ませてる」



爺さんはそう言って暗い表情を見せた。



俺たちは、爺さんの言葉に顔を見合わせた。



もしかしてそれって…。



「狐憑き…」



惺音がぼそっと口に出した。



爺さんが怪訝な顔で惺音を見る。



惺音は慌てて両手を振って取り繕う。



狐憑き。



それは、主に野生の妖狐が人間に取り憑いて悪さをすること。



本人たちは悪戯のつもりなんだろうが、品性の欠片もないその行動はしばしば神々の間でも問題になってたらしい。



大昔に何度か神々も重い腰を上げてそういう悪い野狐たちの一掃に動いたらしいが、まだこの現代にも残っていることは残っている…。
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