神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
危機感がまったくないのは、シルナの常だが。

それは分かってるが、今はそんな人気してる状況ではないだろ。

ましてや、見た目からして気持ち悪い、シルナ特製チョコサンド、とやらを作っている場合ではない。

「痛いよ羽久!何するのっ?」

蹴っ飛ばされた脚を、さすさすと擦るシルナ。

「当たり前だろ!お前は馬鹿か!?…いや、馬鹿だったな!」

「断定しないで!」

「そんな気色悪いもん、作ってる場合じゃないだろ!?今の状況分かってるか!?」

「気色悪いもん!?」

気色悪いもんだ。決まってるだろ。

良いか、フルーツサンドっていうのは、生クリームの中に、フルーツの酸っぱさのハーモニーを味わう、そんな料理なのだ。

甘ったるいパンの中に、甘ったるいチョコクリームと、甘ったるい板チョコを挟む、なんて。言語道断。

聞いてるだけで胸焼けがしそう。

「そんな…。イーニシュフェルトの里で作ってた、『童話シリーズ』の魔法道具を超える…世紀の大発明だと思ってたのに…!」

真剣な顔で、何を言ってるんだ。

里の賢者様達に謝れ。

「食べてみて、羽久。せめて食べてみてから判断して欲しいんだ」

あろうことかシルナは、チョコサンドとやらを俺に食べさせようとしてきた。

「はぁ!?なんで俺がそんなもの、」

「大丈夫、凄く美味しいから!騙されたと思って食べてみて!」

「そんな心配はしてない。騙されるか!」

しかし、余程シルナは、そのチョコサンドに自信があったのか。

今日は、やけに強硬だった。

「本当に美味しいんだよ!一切れで良いから!」

「一口でも嫌だよ!」

などと。

やいやい、と朝から派手な言い合いをしていた、俺とシルナのもとに。

不意に、柔らかにこんこんと部屋の扉をノックする音がして。

俺とシルナは動きを止め、扉の方を向いた。

すると、そこに。

「おはようございます。シルナ学院長先生。私です」

この声は。

「シュニィ…?」

「あ、羽久さんもいらっしゃってたんですね…。おはようございます」

「あぁ…うん、おはよう…」

聖魔騎士団魔導部隊の制服を着たシュニィが、学院長室にやって来た。

…こんな朝早くから…?

もしかして、何かあったのではないかと。

「シュニィ、何が、」

「丁度良かった、シュニィちゃん!」

「は、はい?」

俺の言葉を遮るように、シルナがしゅばっ、と前に出た。

ちょ、普段は鈍重な癖に。こんな時だけ動きが素早い。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がする…!けど、その前に、シュニィちゃん」

「は、はい?」

「これ、食べてみて」

シルナは、さっき俺に食べさせようとしていた、シルナ特製チョコサンドを、シュニィに差し出した。

おい、マジかよ。

「え。な…何ですか?」

「シルナ特製、チョコフルーツサンドイッチだよ!」

よくぞ聞いてくれたとばかりに、渾身のドヤ顔で答えるシルナ。

…だから、フルーツ入ってないっての。

フルーツの入ってないフルーツサンドイッチなんて、それはただのサンドイッチだ。

しかも、チョコまみれの。

「凄く美味しいんだよ、これ。あんまり美味しくて、量産して生徒達の朝ご飯に付けようと思うくらい!」

「えっ…」

やめろ。

こんなものを生徒達の朝食にしたら、大勢の生徒が胸焼けを起こして、保健室がいっぱいになってしまう。

誰もがみな、自分と同じようにチョコ好きだと思ったら、それは大きな間違いだぞ。
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