神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「…」

ルイーシュに、辛辣な言葉を投げつけられ。

シディ・サクメは、いかにも不機嫌そうな表情で、俺達を睨んでいた。

…睨むなよ。

…しかし。

…あまり大人げないことをするのは、俺としても望むところではない。

それに…俺達にそんな約束をさせてまで、存在を隠しておきたい人物…。

一応これでも、自分、スパイだから?

今のところ、スパイとして有益な情報は何一つ手に入れてない、ポンコツスパイなんだが。

興味はあるね。

「…分かった。意地悪言って悪かったよ」

ここは、俺が先に折れてやるとしよう。

スパイじゃなかったら、絶対折れなかっただろうけど。

「他言するなってんなら、約束するよ。自分の胸のうちにだけ留めておく」

「…確か、ですね?」

「はいはい。確か確か。ほんとほんと。黙っといて欲しいことなら、黙っとくよ」

嘘だけどな。

「ルイーシュ様も、同じですね?」

「大丈夫ですよ。俺、口は貝のように固く、足は象のように重いですから」

動けって言っても、なかなか動かないもんな。お前。

「…ぞ、象…?」

「…何か問題、あります?」

「…いえ。分かりました。ではご案内致します」

納得してもらえたようで何より。

「こちらです」

そう言って。

シディ・サクメが俺達を案内したのは、先日までずっと住んでいた、客室の紫水晶の間…ではなく。

その客室の前に通り過ぎ、階段を降りた。

…この辺は、王宮に滞在していた頃にも、一度も来なかったな。

別に、立ち入りを禁止されていた訳じゃない。

だが、家主がいない間に、王宮の中を探り回るような真似をするのは、さすがに憚られて…。

それに、あまり怪しい動きを見せると、疑われると思って。

不必要にきょろきょろしてたら、シディ・サクメの疑いを強めることになる。

俺は出来るだけ、平静を装ってついていった。

やがてサクメは、廊下の突き当たり…行き止まりの壁の前で立ち止まった。

「…」

…まさか、道に迷った?

そんなことはない。

俺は、すぐに気づいていた。

そして、俺が気づいているということは、空間魔法のプロであるルイーシュも、当然気づいている。

…この、壁。

一見すると、ただの壁にしか見えないが。

「ここ、空間が歪んでますね」

と、ルイーシュが冷静に言った。

「…はい、そうです」

サクメも、すぐに認めた。

…そうなのだ。

この場所だけ、不自然に空間が歪んでいる。

お得意の幻覚魔法で、ただの壁…のように見せているけれど。

実際には、この奥にまだ道がある。

道…と言うか、階段だが。

下に続く階段。

恐らくは…王宮の地下室に続く階段だろう。

…わざわざ空間を捻じ曲げ、幻覚魔法で覆って。

こんなつまんない小細工までして、地下室の存在を隠そうとしているなんて。

ほんと…いちいちやることが卑怯で狡猾だよ。この国の人間は。
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