神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
やっぱり、言わない方が良かったかね。

でも、聞いてきたのはナツキ様だから。

俺はそれに答えただけだから。

「…なんということだ…。アーリヤット皇国が…もう、存在していないとは…」

「…あー…。…うん…」

なんて言ったら良いかね。

…ドンマイ!…は違うな。

同情するよ。

アーリヤット皇国が始めた戦争で、領土を失ったなら、自業自得だが。

この戦争を始めたのは、キルディリア魔王国の方だ。

一方的に攻められて、一方的に領土を奪われて…。こんなところまで連れてこられて。

そりゃ、さぞや悔しいだろうよ。

ナツキ様のことは、いけ好かない王様だと思っていたが。

今、この時ばかりは…心の底から気の毒だと思うよ。

あんたさんは悪くない。…あんまり。

少なくとも、この件については悪くない。

悪いのは、戦争を仕掛けたキルディリア魔王国…。

と言いたいところだが、世界魔導師保護条約、なんて不平等条約を提案して、先に世界の秩序を乱したのは、ナツキ様だからな。

…やっぱり自業自得じゃね?

手のひらくるー。

それでも。

「…皇国民は?キルディリアの統治下で、生活を保障されているのか?」

ナツキ様がまず、真っ先に心配したのは。

自分のことではなく、旧アーリヤット領の国民達のことだった。

…。

「かなりの混乱は起きているようです。特に魔導師と、非魔導師の間で…」

ルイーシュが答えた。

「とはいえ、すぐにイシュメル女王と、キルディリア魔王国の有力魔導師がアーリヤット領を治め、新たな秩序を築いているようです」

「…アーリヤット民の虐殺が起きたりは?」

「それはありません。…今のところは、ですが」

「…そうか…」

…こうして見ると。

ナツキ様って、フユリ様へのコンプレックスを拗らせて、底意地の悪いことばっかしてると思ってたが。

いや、実際フユリ様に対しては、超絶意地悪だったけど。

でも…国王としては、そんなに悪い人じゃないんだよな。

フユリ様へのコンプレックスさえなければ、あと、魔導師に対する差別心さえなければ。

普通に、真っ当に、良い国王だったんだろうに。

実際、キルディリア魔王国に侵攻されるまで。

アーリヤット皇国は、ナツキ様の治世のもと、特に問題なく、安定した国政を続けていた。

少なくとも、ジャマ王国みたいに、秩序が完全に崩壊している…なんてことはなかった。 

そう考えると、アーリヤット皇国民は、あれで意外と幸福に暮らしていたのかもしれない。

「アーリヤット皇国本国では、あなたが死んだことにされているので。反乱や反抗も、ほとんど起きていないようです」

イシュメル女王の思惑通り、ってところだな。

ナツキ様が生きていれば、ナツキ様を陣頭に、アーリヤット領内で反キルディリア勢力が強まっていただろう。

だけど、アーリヤット皇国の旗印となり得るナツキ様は、既に戦死したと報告されている。

意気消沈したアーリヤット国民達は、抵抗の意思さえなくしてしまっている。

我らの希望は潰えた。…そう思ってるんだろうな。

他に…ナツキ様の代わりに…アーリヤット皇国の民にとって、旗印となり得る組織や、人物と言えば…。

「…『HOME』の連中は?」

俺は、ナツキ様にそう尋ねた。

ここぞとばかりに、聞きたかったことを聞かせてもらうぞ。
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