神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
10分後。

「お待たせーっ!」

お盆に、3つも大きなマグカップを乗せて、シルナが戻ってきた。

「はいっ、これシュニィちゃんの分」

「あ、ありがとうございます…」

「はいっ、これは羽久の分」

俺の分もあるのかよ。

「で、これは私の分!」

「…はいはい、良かったな」

「うーん。今日も美味しい!」

熱々のホットチョコレートを飲んで、目をとろんとさせ、至福の表情を浮かべるシルナ。

…なんつーか。

この顔を見てたら、世の中のあらゆる、どんな悩みも問題事も、ぜーんぶどうでも良くなるな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど…。ホットチョコレートが美味しいから良いや…」

「あ、そ…」

幸せそうで何より。

…で。

「…シュニィ。今日はどうしたんだ?」

「えっ?」

「何か用事があったんじゃないのか?」

チョコサンド食べに来た訳じゃないだろ。

シュニィだって、忙しいんだから。

こんな朝早くから、わざわざイーニシュフェルト魔導学院を訪ねてきたのだ。

それ相応の理由、何か事情があるものと思った。

すると、案の定。

「あ、はい…。それなんですけど…。実は、相談したいことがあって…」

「えっ。チョコサンド食べに来てくれたんじゃなかったの?」

「シルナは黙ってろ」

お前はもう、一人で勝手にチョコサンド食べてろ。

俺達は真剣に、真面目な話をしてるんだよ。

「それで、相談したいことって?」

「…アーリヤット皇国と、キルディリア魔王国との戦争のことです」

「…」

…そうか。

…それは、確かに大切なことだな。

丁度俺も、その問題について解決の糸口を見つけたいと思っていたところだ。

「ひとまず、ルーデュニア聖王国への侵攻は阻止しましたが…。キルディリア魔王国は、アーリヤット皇国と停戦する気はないようです」

「そうか…。…あいつら、まだ戦争を続けるのか…」

…あいつら、と言うか。

攻め込んだのは、キルディリア魔王国だから。

キルディリア魔王国の王…イシュメル女王だな。

「はい…。いつまでこんなことを続けるのか…。これ以上、国民に被害が出る前に、早く停戦して欲しいのですが…」

「…」

シュニィは沈鬱な表情で、ぎゅっと手のひらを握り締めていた。

…気の優しいシュニィのことだ。

戦争に巻き込まれる、両国の国民達の安否を思い、胸を痛めているのだろう。

対岸の火事なのだから他人事、と簡単に割り切れないのだ。

…気持ちは分かるよ。

俺だって…俺とシルナだって…危うく、その戦争に巻き込まれかけたのだ。

思い出す。

以前、シルナと共にキルディリア魔王国に赴いた時。

危うく、キルディリア魔王国に閉じ込められ、あろうことか亡命させられそうになったことを。

あの時は、ジュリスとベリクリーデが助けてくれたから、良かったようなものの。

もしも二人が俺達を助けに来てくれなかったら、今頃、俺とシルナも、キルディリア軍として、アーリヤット皇国と戦わされていたかもしれないのだ。

あながち、妄想ではないぞ。

…そう思うと、恐ろしいな。

無事に帰ってこられて、本当に良かった。
< 15 / 328 >

この作品をシェア

pagetop