神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
イシュメル女王は、愛用の扇をばさっ、と開き。

その扇で、自分の口元を隠した。

…だから、それやめろって。

表情が見えなくて、余計怖いんだよ。

「さて、おぬしらを呼んだのは、他でもない」

うわぁ。嫌な前置き。

「我が国の上級魔導師として、旧アーリヤット皇国領の視察に行ってもらいたいのじゃ」

「…!」

…何だと?

ちょっと…パニックになるなよ、俺。

こういう時は冷静に…って、冷静になれた試しがないけど。

動揺が、激しく顔に表れていたらしい。

イシュメル女王は、

「なに、そう身構えることはない」

扇越しに微笑みながら、そう言った。

身構えるに決まってるだろ。

「我がキルディリア魔王国が、旧アーリヤット皇国の領土を治めたのは、知っておるな?」

「…それはもう、勿論」

声が上ずらないように注意しながら、俺は答えた。

「占領直後は、わらわが直接赴いて治世を行ったが…。キルディリアの女王たるわらわが、長く国を空ける訳にもいかん。今は、我が軍の信頼出来る上級魔導師を配置して、統治させている状況じゃ」

「そ…そうっすか」

「じゃが、彼(か)の領土はまだ、完全に掌握したとは言えん」

…そうだろうな。

侵略されたかと思ったら、あっという間に制圧されて。

旧アーリヤット皇国民も、まだまだ混乱とパニックの中にあることだろう。

「そこで、おぬしらにもアーリヤット領に赴き、先任のアーリヤット総督の手助けをして欲しいのじゃ」

…つまり。

旧アーリヤット皇国の領土に行き。

そこで、新たにアーリヤット領の総督を任された、俺達の先輩にあたる上級魔導師の手伝いをして欲しい、と。

そういうことだな?

「おぬしらも、我がキルディリア魔王国の上級魔導師となった身…。後学の為にも、異国の占領地で経験を積むのも、悪くなかろう」

「…」

…読めない。

イシュメル女王が何を考えてるのか、俺には読めないよ。

頼むから。ナジュとか呼んできてくれ。

さっきからイシュメル女王は、もっともらしいことばかり言ってるが。

新人上級魔導師の俺達に、占領地の総督の手伝いをさせ、経験を積ませる。

会社の新入社員に、外国の支社で研修を行うようなものだ。

理屈は分かる。超それっぽいことを言っている。

…だけど。

…本当に、イシュメル女王の目的はそれだけか?

俺達を厄介払いしたい?…それとも、アーリヤット皇国に行かせたい理由がある?

しかも…俺達は。

つい、さっきまで…アーリヤット皇国の皇王であった、ナツキ様と会っていたのだ。

俺達とナツキ様を引き合わせたのは、イシュメル女王の差し金だ。

ナツキ様と会わせて、彼と話をさせて…。

そのタイミングで、俺達を旧アーリヤット皇国領土に送り込む…。

そこに、一体どんな意図がある?

…あー、駄目だ。分からん。

頭がこう…。ぱーん、と。すぱーんっ、と…バーストしそう。

昔から、難しいことを考えるには向いてないんだよ。俺の頭は。

容量が小さいからな。
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