神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
しかも。

アーリヤット領にやって来て、すぐに。

俺とルイーシュは、見たくなかったものを見せられる羽目になる。



「さぁ、それでは行きましょう。元アーリヤット皇都に、」

と、エリトール君が言いかけた、

その時だった。

「助けてっ…。誰か助けてぇぇ!」

「!?」

足を縺れさせ、髪を振り乱し。

粗末な衣服の胸に、くちゃくちゃになった紙袋を、しっかりと抱いて。

転がり落ちるようにして、50代くらいの中女性が、叫びながら現れた。

な、何事だ?

「あぁっ…。お願い、助けてください…!」

「え、え、ちょ」

女性は涙を流しながら、俺にすがりついてこようとした。

目が点になっていた俺に対して。

「…貴様!キュレム様に近寄るな!」

「あぁっ!」

こめかみに血管を浮き立たせたエリトール君が、俺と女性の間に割って入り。

あろうことか、女性の腹部をゲシッ、と蹴り飛ばすではないか。

エリトール君の足蹴りを食らった女性は、仰け反って、紙袋を取り落とした。 

地面に放り出された紙袋の中から、ころころと、いくつかの古い缶詰が転がり出た。

「ちょっ…!?何やってんの!?」

年上の女性の腹を、問答無用で蹴り飛ばすなんて。

慌てて、エリトール君を止めようとしたが。

「キュレム様、お下がりください」

ブラマンジュちゃんが、俺を庇うように前に出た。

ちょっ…と、何なんだ?

状況の理解が追いつかないんだが?

何だか、とんでもなく理不尽なことが起きているのは分かる。

「貴様、この御方を誰だと思っている?上級魔導師様だぞ!気安く振れるな!」

怒声を飛ばすエリトール君。

その時、俺は気づいた。

蹴り飛ばされた中年女性は、証明書を身につけていなかった。

キルディリア魔王国から移住してきた民や、元アーリヤット皇国の魔導師なら、証明書を取得しているはずだ。

一般魔導師であることを示す『銀カード』か、そうでなければ、今俺が持っている『金カード』のどちらかを。

しかし、この女性は証明書を持っていない。

つまり…多分、いや、間違いなく。

この女性は、元アーリヤット皇国の非魔導師なのだ。

相手が、非魔導師と分かるや。

この、横暴で乱暴な態度だからな。

それが魔導師のやることか?

すると。

「いたぞ!ここだ!」

「こんなところにいたか!」

「ひっ…!」

逃げる中年女性を追ってきた、憲兵らしきキルディリア魔導師が。

地面に倒れ伏した女性を、乱暴に取り押さえた。

「やめてっ…!助けてください…!」

「何が助けて、だ。今が夜間外出禁止令の時間だということは、分かってるな?」

「…!それは…」

口ごもる中年女性。

すると、魔導師憲兵が、女性の持っていた紙袋に、手を伸ばそうとした。

それを見て、女性は高い声を上げた。

「!返して…!それだけは返してください!」

な、何…?

「子供に食べさせるものなんです。子供が…家で、私の帰りを待ってるんです…!」

「何を言ってるんだ。そんなことが理由になると思ってるのか?」

魔導師憲兵は、まるで汚いものでも摘むかのように。

2本の指で、紙袋を拾い上げた。

紙袋から、白い布に包まれた古そうなパンの塊が、地面にコロリと落っこちた。
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