神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
…やべぇ。女王まで来てしまった。

こっそり逃げ帰るつもりが…もうめちゃくちゃだよ。

これ、今、絶賛大ピンチなのでは?

ベリクリーデはベリクリーデじゃないみたいだし、『アメノミコト』の暗殺者までいるし。

おまけに、そこにイシュメル女王まで…。

…しかし次の瞬間、イシュメル女王は。

彼女にしては、信じられないような言葉を口にした。

「これ以上、その者達に手を出すでない。好きにさせてやれ」

…えっ?

思わず、目が点になった。

「…!…良いのですか?」

今すぐにでも、ベリクリーデに襲い掛かろうとしていた『アメノミコト』の暗殺者が。

イシュメル女王の意図を計り兼ねて、振り返ってそう尋ねた。

聞き間違いではないかと思ったが。

「構わぬ。わらわの城の中で、暴れられても困るからの」

「…」

…嘘だろ?おい。

帰って良い、って言ってるのか?マジで?

一体、どういう風の吹き回し…?

信じられない思いだったが。

しかし、『アメノミコト』の暗殺者は、命令に忠実だった。

これ以上攻撃するな、と言われれば、それ以上攻撃しない。

雇い主の言うことには、絶対服従する。

暗殺者は糸魔法を解除し、すっ、と俺達に道を譲った。

「分かりました。…どうぞ、後のことはご自由に」

「…」

ご自由に…って言われてもな。

いや、別にドンパチやり合いたい訳じゃないから。

平和的に、「どうぞお帰りください」って言ってもらえるなら、それに越したことはないのだが。

突然豹変されたら、それはそれで反応に困る。

…何か裏があるんじゃないだろうな?

絶対、なんか企んでるだろ。

潔く逃がすフリをして、背中を向けたところをグサリ…とか。

でも、もし本気で、イシュメル女王が俺達を素直に逃がしてくれる気なら。

女王の気が変わらないうちに、さっさと退散してしまうべきなのでは?

そう考えて、俺は判断に迷ったが。

しかし、クロティルダの決断は早かった。

「そうか。では、そうさせてもらうとしよう」

え?

クロティルダは、片手でベリクリーデを。

そしてもう片方の手で、俺を抱え上げた。

軽く、ひょいっと、荷物でも持ち上げるような感覚で。

「ちょっ、おま、はなっ…!」

「では、失礼する」

クロティルダは、バサッ、と翼を広げ。

薄い紫色をしたガラスの窓を、突進するように打ち破り。

俺とベリクリーデを連れて、空に舞い上がった。

「くっ…クロティルダ、お前っ…!」

「奴らの気が変わらないうちに、逃げるぞ」

それは分かったけど。

「離せ、馬鹿!荷物みたいに抱えんな!」

「しかし、離したら真っ逆さまだぞ」

そうだけども。

「せめて、もっと…持ち方ってもんがあるだろ!」

「そうだな。失礼した」

は?

あろうことか、クロティルダは。

ベリクリーデを、自分の背中に背負い。

そして、俺を胸の前で、両手で抱き上げた。

…所謂、お姫様抱っこの形である。

「これで文句はないだろう?」

「…あるに決まってるだろ!」

なんで、何が嬉しくて、クロティルダなんかにお姫様抱っこされなきゃならんのだ。

せめて逆だろ。俺が背中に乗るから、ベリクリーデをお姫様抱っこ、

と、抗議しようとしたが。

「舌を噛むぞ。黙っててくれ」

「っ…!!」

クロティルダは、追跡を振り切るように一気に加速した。

こうなったら、最早、俺に出来ることは何もなかった。

大人しく…クロティルダのお姫様抱っこタクシーに乗って、連れて行かれることしか出来ない。

…逃げられたのは有り難いけど、なんか、こう…。

…畜生。
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