神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
…一時間後。

「うぇっ、ふぇぇ…。酷いよう…そんなに怒らなくても良いのにー…」

イレースに、たっぷりと、こっぴどく叱られたシルナ。

いじけた子供みたいに、うじうじめそめそしていた。

良いけど。わざわざ俺の背中にもたれてうじうじすんのやめろよ。

「ふん、酷いのはどっちです」

一時間ガミガミ叱りつけても、まだ怒りが収まらないのか。

相変わらず、刺々しい口調のままのイレースである。

「ただでさえイーニシュフェルト魔導学院では、猫の餌代が嵩んでいるというのに。そこにパンダの餌代まで…。とても負担しきれません」

シルナ。お前、パンダだって。

「…何だか、どさくさに紛れて僕も一緒に罵倒されているような気がする」

と、いつの間にか学院長室に来ていたマシュリ。

猫の餌=マシュリの猫缶だからな。

「おまけに、学院長が余計な部活動をいくらでも増やすせいで、各部の部費も嵩んでますしね」

イレースは、じろっ、と令月とすぐりをも睨んだ。

あぁ…矛先が、ついに令月とすぐりにまで…。

つーかこの二人は、いつの間に学院長室に来てたんだ…。…呼んでないぞ、俺は。

「失礼だなー。俺達だって、部費が嵩まないように、色々と工夫してるよ?」

「そうだよ。腐葉土も肥料も虫除けの農薬も、全部自分達で採取した天然素材を配合して、出来るだけ自作するようにしてるよ」

だってさ。

腐葉土も肥料も、農薬まで自分達で作っているとは。

本職の農家より凄くね?

すると、そこに天音が。

おずおずと手を挙げて、

「あのー…。そろそろ本題に…」

と、言おうとしたのだが。

「とにかく、来月分の餌代は減らしますからね。大体なんで学院の運営費にパンダと猫の餌代が含まれているのか、甚だ疑問ですよ、私は」

「ひぐっ…」

イレースのチクチク言葉が止まりません。

「あのー…。…本題…」

「無駄ですよ、天音さん」

ナジュが、真顔で天音に言った。

「今イレースさんの頭の中は、『パンダなんだから、その辺の笹でも食べてれば良いのに…』ってことでいっぱいですから」

「あっ…」

…ごめんな、天音。

お前は何も悪くないんだ。

こんな非常事態に、チョコレートを貪り食ってるシルナが悪い。

「羽久…。酷いんだよ、イレースちゃんが。私、人間なのに。笹食べろって言うの。ねぇ、酷いと思わない?」

「…あのさ、シルナ。笹のことはどうでも良いから」

「良くないよ!?笹とチョコレートはまったくのべつも、」

「ついさっき、聖魔騎士団から使者が来た。キュレムとルイーシュが、無事にルーデュニア聖王国に戻ってきたらしい」

「ほへっ」

シルナは、間抜けな声を出して、目を見開いて、ぽかんとしていた。

…なんとも気の抜けた顔だが。

「キュレムとルイーシュ曰く、ナツキ様は生きてて、キルディリア魔王国のファニレス王宮に囚われてるらしい」

「…」

ぽかんとしたままだが、ちゃんと聞いてるよな?

聞いてる前提で話を続けるぞ。

「それから、キルディリアは…イシュメル女王は、『アメノミコト』を傭兵代わりに雇って、王宮にも出入りさせてるそうだ」

「…」

またしても、無言のシルナ。

…口、ぽかーんとしたまま固まってるんだが。大丈夫か?
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