神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「…そういうことなので、学院長と羽久さんには、イシュメル女王との交渉を試みてもらうとして…」

「…ねぇ、ナジュせんせーは心が読めるから、もう分かってると思うけど」

と、すぐりさんが口を開いた。

「俺と『八千代』は、後方待機してろって言われても、言うこと聞かないからね」

「その時は、もう不死身先生の指揮下から抜ける。勝手にさせてもらうよ」

…令月さんまで。

いやはや。血の気の多い若者達ですね。

二人の犯行的な発言に、羽久さんが苦言を呈した。

「お前ら…。不本意でも、指揮官の指示には従うものだぞ」

「僕は暗殺者であって、軍人じゃない」

まぁ、そうなんですけど。

「…大丈夫ですよ。分かってますから」

すぐりさんの言う通り。

あなた達の心の中は見えてますから。

彼らが何をしたいのか…。何をするべきだと思っているのか、僕もちゃんと分かっています。

その上で、あなた方の意志を尊重しましょう。

「令月さん、すぐりさん。あなた方にも別働隊の任に着いてもらいます」

「…何をする為の別働隊?」

「まさか、俺達にもわへーこーしょーをさせよう、とか思ってないよね?」

そんな、「和平交渉」の部分だけ馬鹿にしたみたいに言わないでくださいよ。

平和のうちに事を済ませられるなら、それに越したことはないんですから。

「違いますよ。…お二人には、キルディリア魔王国に行っていただきます」

「…。…それで?」

「ナツキ様を救出してください。アーリヤット皇国にナツキ様が戻れば、形勢は一気に逆転します」

アーリヤット皇王、ナツキ様というのは、この戦争において重要なキーパーソンとなる。

今、一斉に各地で蜂起し、デモを起こしているアーリヤット皇国民の最終目的は。

ナツキ様の身柄を、アーリヤット皇国に取り戻すこと。

そして、キルディリア魔王国軍を撤退させることだ。

だからこそキルディリア魔王国軍は、今でもナツキ様を、大事に本国の王宮の地下に隠している。

「人質」を取り返せば、イシュメル女王とて、それ以上強気には出られないだろう。

逆に言えば、ナツキ様という人質がいる限り、キルディリア魔王国の優勢は揺るがない。

故に、この馬鹿げた戦争を終わらせる為には、ナツキ様を取り戻すことが必須条件なのだ。

…そして。

戦争の経験はなくても、正体を隠して潜入、闇夜に紛れて捜索することに関しては。

令月さんとすぐりさんは、この場にいる誰よりも優れている。…むしろ本職。

だから、元暗殺者組のお二人は、戦争に参加させるより。

別働隊として、ナツキ様奪還作戦を遂行して欲しいと思っている。

そしてそれは、二人自身の望みでもある。

ナツキ様の身柄のことを言ってるんじゃありませんよ。

キルディリアのファニレス王宮に潜入していた、キュレムさんとルイーシュさんが教えてくれた。

ファニレス王宮に、とある人物がいる…と。

令月さんとすぐりの本当の目的は、その人物に会うこと。

ナツキ様の奪還は…まぁ、名目ですね。

二人の意思は堅く、誰が何を言っても曲げられそうにない。

それどころか、本気で、僕の指揮下から離れることも厭わないと思っている。

だったら、望むようにさせてあげますよ。

そのついでで良いので、ナツキ様を取り返してくれたら万々歳。
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