神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
そして、それは二人の元暗殺者達にしても同じ。

この二人もまた、戦争に参加した経験はないと言っていた。

「暗殺」の現場では、超一流のプロだが。

「戦場」においては、二人共新入社員だ。

暗殺と戦争は、似て非なるもの。…いや、全くの別物と言っても過言ではない。

残念ながら僕には、右も左も分からない新入社員を庇いながら戦うほどの余裕は、ありませんから。

だから僕は今回、「戦争の経験」を重視してた人選を行っている。

経験がない者は、まず戦場には連れて行かない。

イレースさんは学院に待機、天音さんは後方支援。

それから、シルナ学院長と羽久さんは別働隊。

「…ご理解いただけましたか?」

「…。あぁ、分かった」

羽久さんは、険しい顔で頷いた。

納得が行かない、って顔をしてるが。

でも、彼の心の中を見れば分かる。

彼が本当に納得していないのは、僕の決断じゃなくて、自分自身のことだ。

「こんな時に、平和ボケした自分じゃ役に立てない」と、自分自身を責めている。

…それは違いますよ、羽久さん。

戦争の経験なんて…ない方が、ずっと幸せなんです。

「今回の指揮官はナジュ、お前なんだ…。だから、お前の指示に従うよ」

「ありがとうございます」

「でも…別働隊って、何をすれば良いんだ?」

そうですね。聞かれると思ってました。

「学院長、羽久さん。あなた方二人は、イシュメル女王に会いに行ってください」

「え?」

僕達はこれから、戦争をしに行く訳だが。

でも、好き好んで戦争したい訳じゃない。

ましてや、それが長引くとなれば…その先に待っているのは、血みどろの地獄だ。

僕はその地獄の景色を、嫌と言うほどよく知っている。

…あんなものを、もう二度と見たくはない。

だから…もっと、根本的な解決手段を模索したいのだ。

「イシュメル女王と交渉してください。アーリヤット皇国と講和を結び、これ以上の被害を出さないように…。平和の仲介をして欲しいんです」

ルーデュニア聖王国の代表として、和平の仲介を申し出て欲しい。

イシュメル女王とナツキ皇王、この二人の手を、力ずくで繋いで欲しい。

「それ、聞く耳持ってくれるの?一度失敗してるのに」

と、令月さん。

手厳しいですね。

以前、聖魔騎士団のシュニィさんが、和平の交渉に行った時。

あの時は、イシュメル女王は聞く耳を持たず、つっけんどんに追い返したらしいですね。

「まぁ、頑固な女王様のようですから、聞いてくれないかもしれませんが…。それでも、学院長の言うことなら、聞くだけなら聞いてくれるかもしれないでしょう?」

「それはどうかな」

「やってみないよりはマシです。和平の道を模索出来る手段が残っているなら、例え可能性が皆無に思えても、試してみるべきです。…戦争なんて、誰も望んでいないんですから」

「…」

…おっと。ちょっと湿っぽいこと言っちゃいましたね。

「…ナジュ君…。…大丈夫?」

案の定、天音さんが心配して、声をかけてきた。

「大丈夫ですよ、天音さん」

僕自身が、通ってきた道ですからね。

こんな時くらい…ちゃんと、しっかりしますよ。
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