神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
…ってことはこの人、キルディリア魔王国の魔導師か。

「お前達、アーリヤット人だな?」

「えっ、えっ」

シルナ、たじたじ。

いや、「違います」ってちゃんと言えよ。

しかし、言いたくても言えない気持ちはよく分かる。

だって、その女性はさながら、授業中に居眠りをしている生徒を見つけた時の、イレースのような。

まるで、地獄の閻魔みたいな眼光で、俺達を睨みつけていたから。

怖っ。美人が台無し。

「何のつもりだ?外出禁止令が出ていることを知らないのかっ!?」

「え、えー…。いや…」

何のつもり…と言われても。

外出禁止令が出ているなんて…ついさっき知ったもんで。

「総督府に連行する」

「えっ」

その若い女性が、ガシッ、とシルナの腕を掴んだ。

捕獲、完了。

って、冗談言ってる場合か。

外出禁止令が出ていることは…たった今知ったが。

まさか、通りを歩いているだけで連行されるとは。

「ちょ、ちょちょちょ、待って!私は、私も羽久も、何も怪しいことなんて!」

「良いから、来い!薄汚いアーリヤット人め。お前もどうせ魔導師じゃないんだろう!」

「えぇぇぇ!違う、違うよ。話を聞い、」

「魔導師じゃない者の話など聞くものか!」

「いやぁぁぁ!羽久助けてぇぇぇぇ!」

涙目のシルナ。

…ったく、どいつもこいつも。

「俺もシルナも、魔導師だよ」 

「え?」

「正真正銘の魔導師だ。…ほら」

俺は、杖を取り出してみせ。

マッチの火をつけるみたいに、杖の先に簡単な炎魔法を纏わせた。

「私も、私も出来るよ」

シルナもまた、慌てて杖を取り出し、水魔法を杖に纏わせた。

すると。

鬼の形相だった女性は、途端に顔色を変えた。

まさに豹変である。

「えっ…。魔導師…?」

「…そうだ。信じてもらえたか?」

「あ…そ、そうだったんですね。これは、失礼しました」

突然、敬語になった。

「ですが、いくら魔導師と言えども、今は外に出るのは危険ですよ」

「あぁ…。外出禁止令が出てるんだっけ?」

「はい。各地で非魔導師のアーリヤット人共が反乱を起こしているそうです」

…。

「魔導師かどうかなんて関係ないだろ?反乱には、アーリヤット人の魔導師も参加してるって…」

「そうですね。でも、それはきっと、アーリヤット人の非魔導師が扇動して、魔導師の方々をかどわかしたに決まってます」

「…」

世の中の悪いことは全部、非魔導師のせいだと思ってそうだな、この人。

それどころか。

「それもこれも…あんな下らないビラを撒いた、あの人達のせいです」

…ん?

ビラ?

「あんなデマを真に受ける、アーリヤット人もどうかしてますけど」

「えーと…。すまん、ビラとかデマとか…どういう意味なんだ?」

「え、知らないんですか?」

ご、ごめん。

アーリヤット皇国に着いたのは、ついさっきなもんで…。

でも、俺の予想が正しければ、そのビラって。

「キュレム様…いえ、裏切り者のキュレム・エフェメラルとルイーシュ・レイヴン・アルテミシアが、ナツキ皇王の生存を知らせるデマを、アーリヤット領全体にばら撒いたのです」

その女性は、憎々しげにそう言った。
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