神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
幻覚魔法…と言えば。

そういう魔法は…クュルナの得意分野だが。

「僕が、クュルナさんにお願いしたんですよ」

「っ、ナジュ?」

俺とベリクリーデが戻ってきたことを知り。

指揮官のナジュが、この場にやって来た。

「出来るだけ、双方に怪我人を出したくないですからね。一計を講じさせてもらいました」

「…何をしたんだよ?」

クュルナに、一体何をさせたんだ?

「ぶつかり合ってるキルディリア軍、アーリヤット人の民衆全員に、『ちょっと強烈な』幻覚魔法を見せてもらったんです」

「何…?」

「そうすると、お互い戦闘どころじゃなくなるでしょう?怪我を出さずに、穏便にお取引き願える訳です」

「…」

俺は、呻き声をあげる患者を見下ろした。

「豆腐が…。頭の上に…。…刻みネギと、おろし生姜を添えて…」

…クュルナ、お前、一体どういう幻覚を見せたんだ?

「おーい、大丈夫?お醤油かけてあげよっか?」

「ポン酢…。自分は、ポン酢の…方が…!」

「そっか。じゃあポン酢にしようね」

ベリクリーデは、呑気に患者の頭をなでなで、と撫でてやっていた。

…。

「…確かに怪我はしてないけど、深刻な後遺症を負ってないか?」

「大丈夫ですよ。1時間ほどで、幻覚魔法の効果は消えてなくなります。後遺症は…。…精々、しばらく冷ややっこ恐怖症になるくらいじゃないですか?」

「…それはそれで、重症だろ…」

気の毒に。

平和的なんだが、そうじゃないんだか分からない。

まぁ、なんだ。

雪崩に巻き込まれたり、洪水に溺れる幻覚を見せられたら。

雪を見る度、雨が降るのを見る度に、トラウマを彷彿させることになるかもしれないが。

豆腐なら…。…何とか、避けて生きることも可能かもしれない。

という、クュルナなりの優しさなのかもしれない。

…そう思うことにしよう。うん。

結果として、怪我人はかなり抑えられているようだし。

幻覚魔法…クュルナの真骨頂が、功を奏しているようだな。

…だが。

「…無闇は?あいつは…幻覚魔法は得意じゃないだろ」

その幻覚魔法戦法は、幻覚魔法が得意なクュルナだから出来ること。

もう一人の無闇は、幻覚魔法が得意じゃないはずだ。

無闇の方は、やはり怪我人が多発しているんじゃないか、と思ったが。

「あぁ、無闇さんの方は…炙り出し作戦をお願いしています」

と、ナジュが答えた。

「あっ…。炙り出しっ…?」

…なんか、凄く物騒な言葉が出てきたぞ。

つまり、火攻めのことだろ?

クュルナとは打って変わって、こちらは随分と…野蛮な作戦のようだ。
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