神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「何これ、って…。カップ麺で良いって言ったじゃないですか」

言ったっけ?

…言ったような、言ってないような…。

…生返事で頷いたような気がする。

だからって…。

「何なん?これ。なんか…甘ったるい匂いがするんだけど…」

「そうですね。粉末スープを入れた時から、凄い匂いを発してましたよ」

だよな?

この匂い…何処かで嗅いだことがあるような。

俺は慌てて、カップ麺の蓋を確認した。

そこには、

「の…濃厚コーンポタージュ味、だと…!?」

確かにそう書いてある。間違いない。

言われてみれば、この甘い匂い…コーンポタージュのそれだ。

初めて見た。…コンポタのカップ麺。

コンポタ味が覇権を取れるのは、うんまい棒だけだと思ってたぞ。

「コンビニで見つけたんですよ。おもしろそ、いえ、美味しそうでしょう?」

と、得意げなルイーシュ。

お前、今、「面白そう」って言いかけなかった?

そういう軽いノリで食べ物を買うのはやめなさいって、小さい時習わなかった?

…一方。

「ルイーシュ…。お前のそれは何味?」

ルイーシュは、俺のコンポタラーメンとは違うカップ麺を手にしていた。

こちらは…唐辛子みたいな、ピリッと辛い臭いがする。

食欲をそそられる香りだ。

「あ、これですか?俺のはマーボー味です」

絶対、そっちの方が美味しいじゃん。

マーボー味に外れはない。

「後入れのラー油で、辛さを自分で調整出来るんですよ。良心的ですよね」

「畜生…。俺もそっちが良かった…」

「おっと、そろそろ五分経ちますね。それじゃ、いただきまーす」

ルイーシュは、俺の嘆きに耳を貸すことなく。

一人で勝手に、べりべり、と蓋を開き、マーボーラーメンを啜り始めた。

「…どう?美味い?」

「ふむ、これはなかなか…。美味しいですよ」

「そうか…そうだろうな…」

美味しそうな匂いがしてるもん。

俺もそれ、気になるから。今度自分でコンビニに行った時に探してみよう。

…で。

俺の目の前には、コーンポタージュ味のカップ麺がある訳だが。

「キュレムさん、もう五分経ってますよ。麺が伸びる前に、早く食べないと」

「…分かってるよ…」

まず、蓋を開けるのに勇気が必要なんだよ。

変わり種のカップ麺は好きだが、でも、それは「奇抜だけど、ちゃんと美味しい」ってことが前提だからな。

悪ノリは良くない。

「こんなの食えるか!」と、突き返してやることも、考えなくはなかったが。

…しかし。

だからって、食べ物を無駄にするのは…もっと良くないからな。

仕方ない。生返事しちゃった俺が悪い。

覚悟を決めて…食べるよ。

俺は恐る恐る、べりべり、と蓋を開いた。

途端に、むわっ、と立ち昇るコンポタの匂い。

うへぁ。

「なかなか強烈な匂いですね」

マーボー麺を啜りながら、ルイーシュは他人事みたいにそう言った。

買ってきたのはおめーだよ。責任取れ。

割り箸で麺をかき混ぜると、より一層、強くコンポタの匂いが立ち込めた。

黄色っぽい、どろどろしたスープの中に。

柔らかくなったノンフライ麺が、コンポタの沼を泳いでいる。

かやくの代わりなのか、コーンの粒や、四角くカットされたクルトンが、ぷかぷか浮かんでいる。

すげー…。本当にコーンポタージュだ。

スープだけは美味しそうだな。…スープだけは。

それじゃ。

いざ、実食。
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