神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
案の定。

無闇の連れてきた怪我人も、いずれも軽傷ばかりで。

天音が回復魔法を使うまでもなく、絆創膏を貼っておけば済むような怪我だった。

何よりだ。

「ふぅ…。こんなものかな」

無闇が連れてきた怪我人の、最後の一人の手当てが終わった。

お疲れさん、天音。

すると、丁度その時。

「どうですか、進捗は」

「あ、ナジュ君」

作戦指揮官のナジュ君、ことルーチェス・ナジュ・アンブローシアがやって来た。

「怪我人の手当ては終わったよ。みんは軽傷ばかりで…。今のところ、命に関わるような患者はいない」

「そうですか。それは何よりです。…クュルナさん、無闇さんの方は?」

「問題ありません。各地で小競り合いは起きているようですが、まとめて眠らせましたから」

さらっと答えるクュルナ。と、

「こちらも問題ない。死傷者を出さずに事を収めている」

「私と無闇君の頑張りのお陰だよね!」

無闇と月読が、それぞれ答えた。

「分かりました。…それじゃジュリスさん、ベリクリーデさん、そちらは?」

ナジュは、今度は俺とベリクリーデに尋ねた。

「こっちも、特に問題はないよ。…ベリクリーデの頭に、空き缶をぶつけられた以外は」

「ポップコーン、拾おうと思ったの」

「あぁ…。成程、それは大変でしたねー」

俺とベリクリーデの心を読んで、何が起きたかを察したらしいナジュである。

便利だな、その読心魔法って奴は。

「思ったより…被害が少なく済んでて、良かったね」

全員の報告を聞いて。

天音が、安心したようにそう言った。

…そうだな。

もっと…血で血を洗うような、血生臭い戦場を思い浮かべていたが。

今のところ、そういった…戦場の惨劇は、未然に防ぐことが出来ている。

誰にも大怪我をさせず、そして、死者も出さないうちに、事を収められている。

どうかこのまま、誰も傷つかないうちに、キルディリア国軍を撤退させられれば…。

「この調子なら、きっとこのまま、平和に解決…」

「…それはどうでしょうね」

「えっ」

天音の、平和を望む気持ちに水を差すように。

対するナジュは、厳しい意見を口にした。

「僕の予想だと、平和なのは今のうちだけです。ここから、もっと悪くなると思います」

「えっ…な、なんで?」

…天音には悪いが。

正直、俺もナジュと同意見だな。

そろそろ…キルディリア国軍も、本腰を入れ始める頃だろうから。

「気づいてますか?皆さん。今のところ、反乱の鎮圧に当たってるキルディリア国軍の魔導師は、全員『銀カード』…一般魔導師なんです」

「…!」

その台詞で、天音もナジュが言わんとしていることに気づいたようだな。

「キルディリア魔王国の本命は、あくまで『金カード』…上級魔導師です。このまま小競り合いが長引けば、いずれ上級魔導師も戦場に投入されるでしょう」

「そ、そんな…」

…来るだろうな。俺もそう思う。

出来れば来ないで欲しいけど。…そうは行かんだろう。

あの狡猾な、キルディリア女王のこと。

『銀カード』の魔導師で手に負えないとなったら、今度は『金カード』を送り込んでくるはず。

そうすれば…今みたいに「平和な」戦場は、一気に崩れ去り。

俺達が想像していた通りの…本物の戦場に変わるはずだ。

この野戦病院テントでさえ、例外ではない。

上級魔導師の攻撃を受ければ、擦り傷や捻挫くらいじゃ済まない。

そして、プライドの高い上級魔導師達は、アーリヤット皇国の民を手に掛けることさえ、まったく厭わないだろう。

いくら、俺達が間に入って、仲裁しようとしても。

相手が上級魔導師じゃ…これまでのようにはいかないだろうな。
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