神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
俺は、その名前を思い出した。

智天使ケルビムって…確か…三大天使の一人。

クロティルダと…それから、リューイの上司…。

「…ケルビム…」

「…こんにちは。あなたが、聖神ルデスの器ですね」

ケルビムはベリクリーデの方を見て、にこりと微笑んだ。

…聖神ルデスの器、じゃねぇ。 

そいつは、ただのベリクリーデだ。…それ以外の何物でもない。

「…すげー…。でっけー羽根。これが智天使…」

「初めて見ましたね」

キュレムとルイーシュが、それぞれ言った。

…意外と、二人共冷静だな。

って、俺も、別に驚いちゃいないが…。

この世には、魔物も、竜も、神様だっているんだから。

今更、天使の親分が出てきたくらいで、驚くに値しない。

「…あんたがケルビムか」

「はい。…あなたは、『黎明の魔法使い』…ジュリス・レティーナさんですね」

…ちっ。

つまんない昔の二つ名を、いつまでも覚えてるんじゃねぇよ。

それよりも。

「確か、イーニシュフェルト魔導学院のマシュリ・カティアを殺したのは、あんただったな?」

忘れたとは言わせねぇぞ。

「…そんなことありましたっけ?キュレムさん、覚えてます?」

「お前は忘れてんのかよ。冥界に心臓取り戻しに行ったじゃん」

「あぁ。ありましたねそんなこと」

ぽん、と手を打って思い出すルイーシュ。

嘘だろ、お前。あれ、結構な大事件だったじゃん。

忘れるの早すぎだろ。

「あの時は大変でしたよ。危うく、巨人の胃の中で溶かされて、栄養分になるところでした」

「まったくだぜ。自分も、危うく浦島太郎になるところだった」

「…それについては、本当に申し訳なく思っています」

智天使ケルビムは、心から申し訳なさそうに目を伏せた。

「私としても、マシュリ・カティアさんを手に掛けることは…望んでいませんでした。ですが、あの時は…仲間の天使に説得されて…」

「お、おぉ」

「私の意志が、力が及ばないばかりに…。マシュリさんにも、あなた方にも、たくさん迷惑と苦労をかけることになってしまいました。本当にごめんなさい」

ぺこり、と頭を下げるケルビム。

…随分と腰の低い天使だな。

これには、キュレムもたじたじ。

「え。いや、別に、そんな畏まられると困るんだけど」

「天使に…それも三大天使の一人に、頭を下げさせるなんて…。俺達、もしかして大物なのでは?」

「あんたさんを責めても、なんも変わらないだろ。もう気にすんなって」

キュレムもルイーシュも、相変わらずさっぱりしていることだ。

俺と違って、「絶対許さねぇ」なんて言わない。

「それより、そこのクロッティが行方を眩ませてたのは…」

「…それも…私達天使の問題です。迷惑をかけて申し訳ありません」

天使同士のいざこざの結果、って訳ね。

巻き込まれる方は、溜まったもんじゃない。

「でも、クロティルダは何も悪くないんです…。彼はただ、巻き込まれただけで…。どうか許してあげてください。お願いします」

そう言って。

智天使ケルビムは、ぺこりと頭を下げて、俺に謝罪した。

…。

これには、さすがの俺も、少し心が揺れ動いた。
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