豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
 運命の神は時に残酷で甘い痛みを与える。
 あの日、あの時、神は確かに俺の味方だった。しかし、鈴香と再び出会ってからは、苦《にが》い想いだけが心の底に積もっていく。
 新人として顔を合わせた時、俺の正体に気づかないのはまだ許せた。しかし、俺の教育係になり接点が増えてからも気づかないなんてあり得ないだろう。
 いつまで経っても彼女の中の俺は、一後輩でしかない現実に苛立っていた。だから、教育係だった鈴香に嫉妬した女の暴走に気づきながら止めなかった。
『少しでも鈴香の心に俺の存在を刻みつけたい』
 そんな想いも結局、一人であっさり嫌がらせを解決していく彼女の見事な手腕に打ち砕かれる事となった。
 鈴香の前では、俺の存在など他の同僚達と同じだと痛感する日々に限界が近づいていた。
 全てが上手くいかない。
『私を崇拝する可愛い下僕が沢山いるのに、毛も生え揃ってない生意気なガキの相手は萎えるわぁ』
 横で眠る鈴香の残酷な言葉が脳裏を霞めていく。
 彼女にとって俺は、ワガママなガキにしか写らないのだろう。欲しいモノが手に入らず駄々をこねるガキと一緒なのかもしれない。
 土下座事件以降、増え続ける鈴香の下僕志願者以下の扱いにも腹が立つ。
 俺の正体を告げ罪悪感を煽り、彼女の弱味を突きつけ俺に縛りつけたとしても、鈴香の心に俺を刻みつける事は出来ないのか。
 クリスマスイブの真実を明かす必要はなかったのかもしれない。彼女の罪悪感を煽り、俺の言いなりにする事だって出来た。その方が簡単に彼女を思うがまま操れる。しかし、真実を明かした。
 罪悪感はいつか消えてなくなるが、憎悪の感情は、俺が側にいる限り鈴香の心の中で燃え続ける。
 憎悪の感情でも構わない。
 鈴香の心に俺という存在を刻み込めるのであれば……
『貴方こそ私が欲しいのでしょ』
 快感に溺れてなお、屈しなかった鈴香の挑発的な視線が俺を狂わせる。
 結局今回も俺の負けか。
「くくっ、本当、可愛くねぇ……」
 自嘲的な笑みを溢し、彼女の濡れて赤く色づいた唇にむしゃぶりついた。
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