豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「ただいまぁ~」
「……おかえり」

 扉を開けリビングへと入ってきた橘の顔も見ずに、おざなりな返事を返す。

「何作っているの?」
「ハンバーグ……」

 キッチンへと入ってきた橘が背後から手元を覗き込む。さり気なく腰に回された腕に気づいたが解くことはしなかった。
 丸く成型した肉ダネをフライパンへと放り込んでいく。

「火を使うから離れて」
「ダメだよ。まだ、お帰りのチューもらってない。ほらっ……」

 身体を反転させられ橘と向き合っても、目を合わすことすら出来ない。
 これも揶揄って遊んでいるだけ。
 不意に込み上げてきた涙に、慌てて俯《うつむ》いた私の頭に大きな手が乗せられポンポンとあやされる。

「何、一人でグルグルしてるの?」
「……別に」

 素っ気ない態度しか、取れない私の身体が宙に浮く。

「……っ、ちょっ、待って!!」
「待たない。ご機嫌ナナメな鈴香ちゃんのお話を聞かなきゃね。さぁ~て、明日は休みだし時間はたっぷりある。持久戦と行きますか。話すまで離さないからな」

 ソファに座った彼の膝の上に乗っけられ、腰をガッシリとホールドされる。

「離してって!!」
「やっとコッチ見たな。やっぱり泣いてた」
「えっ!?」

 少し冷たい指先が頬を撫でていく。
 泣くつもりなんて無かったのに……

「橘のせいなのに! 私の気持ち弄んで、揶揄って何が楽しいのよ!! 悪戯に抱き締めたり、キスしたり、何がしたいの……」

 目の前の胸をポカポカと力任せに叩く。

「もう私の心を惑わせないで……」

 涙はもう止まらなかった。自分が何でこんなに泣くほど苦しいかもわからない。ただ、彼の言動が許せない。 
 橘の気持ちが見えず怖い。
 力任せに叩き続ける手が捕らわれ、引き寄せられる。
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