豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網

思いがけない告白

『吉瀬美沙江は、橘の忘れられない人……』
 あの日から、頭の中でこの言葉がクルクルと回り、落ち着かない。
 先程から一文字も進んでいないパソコン画面を見つめ、集中すら出来ていないことを痛感する。
 こんな状態になるなら、麻里奈ちゃんの手を振り払い逃げ出せば良かったと後悔しても、後の祭りだ。
 橘は、私の様子がおかしいと気づいているだろう。よく人の事を見ている男だ。今朝もいつも通り振舞っていたけれど、何か言いたげにしていた。でも、追求されることはなく、キスだけして先に出て行った。『あんまりグルグル考え過ぎるなよ』って言う言葉だけを残して。

「はぁぁ……」

 大きなため息を溢し、デスクに突っ伏す。

「どうしたのさ。鈴香らしくないぞぉ。どうやら何か悩み事がある様子。奢りなら話聞くぞ。この後、飲みに行きますか?」

 ポンポンと肩を叩かれ振り向くと同期の明日香がニッコリ笑いながら背後に立っている。

「なんだ、明日香かぁ。ビックリさせないでよ。まだ、就業時間内です。行けるわけないでしょうが」
「残念~。もうとっくに退勤時間過ぎてますよぉ」
「うそ……」

 慌てて時計を確認すれば、退勤時間をすでに一時間も過ぎている。そんな事にも気づかないほど悩んでいたのかと自己嫌悪に陥る。

「本当でーす。鈴香さんはお疲れのようだし、ここは一杯飲みに行くのがベストですな。強制連行~」

 明日香に腕を掴まれ、立ち上がると帰宅準備もそこそこに会社を後にした。
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