豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網

加速する想い

 ありきたりな日常が過ぎていく。
 キーボードを打つタイプ音もガサガサと鳴る書類の音も、ひっきりなしに掛かってくる電話の音やガヤガヤと忙しなく響くフロア内の騒めきも全てが普段通り。何も変わらない仕事風景が流れていく社内で私の心の変化に気づく者などいないだろう。
 そして、『橘真紘』と私の関係が終わった事に気づく者も誰もいない。
 会社内で関係を隠すように強要したのは私だ。それが今となっては自分を苦しめる。
 営業部内で広まりつつある噂が私の胸の傷をジクジクと傷ませる。

『橘君と吉瀬さん、どうやら付き合っているらしいよ』

 吉瀬さんが営業部へと出向して来て一ヶ月。彼女は持ち前の社交能力を発揮し、営業部内でも一目置かれる存在となっていた。人当たりもよく、役職問わずフランクに接する姿に、男女問わず憧れを抱く者も多い。
 そして不慣れな吉瀬さんのサポート役となった橘は、社内でも彼女と行動することが多い。美男美女のカップルとして、二人はあっという間に噂の的になった。
 橘の手を離したのは自分なのに、二人の噂を耳にするたび思い知らされる彼への想いと嫉妬心。そんなドス黒い感情を自覚する度に、自分が嫌いになっていく。本当の私は嫉妬深くて女々しい女なのだ。
 仲睦まじい二人を見ているのも嫌で、席を立つと、足早にフロア内から退室した。
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