豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
 カーテンの隙間から差し込む陽射しに目を覚ます。ビッショリとかいた汗が気持ち悪く、身体を起こせば思いの外、頭も身体もスッキリしている。どうやら熱は下がったようだ。
 ゆっくりと辺りを見回している自分に気づき苦笑が漏れる。無意識のうちに橘が居た痕跡を探そうとしていた。
 やはり、あれは夢だった。
 橘が私を心配して来るなんて、あるはずない。関係を断ち切ったのは私なのだから。
 胸に去来したわずかな落胆を振り払うようにベッドから起き上がり、寝室の扉を開けリビングへと入る。喉の渇きを潤すためキッチンへと入り、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出そうとした手が止まった。
『あまり無理すんなよ』
 少し癖のある字で書かれたメモが貼られたタッパを見つめ、涙が込み上げる。
 夢じゃなかった。
 熱でうなされた私が見た幸せな夢ではなかったのだ。確かに橘は、ココにいた。
 額に触れた冷たい手も、繋がれた熱い指先も、『好きだ』と言われたことも夢じゃなかった。そして、『好きだ』と伝えたことも。
 橘が好きだと叫ぶ心を偽ることは、もう出来ない。
 カッコ悪くたっていい。
 年の差がどうとか、橘の想い人が吉瀬さんだとか、そんなのどうでもいい。
 たとえ惨めに振られる未来が待っていようとも、心を偽って何もしないよりはマシだ。
 ありのままの私で……
 メモを握り締め、くず折れた私は床にうずくまり溢れ出した想いのまま泣き続けた。ある決意を胸に抱き。
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