豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
「ふふ、ふふふ……、何も変わっていないのね。よく分かったわ。貴方にとって私は今も昔も都合のいい女でしかないってことが」
「ちょ、ちょっと待てって! それこそ誤解だ。俺の言い方が悪かっ――」
「何が誤解なのよ。何度浮気しても、最後は受け入れてくれる私の存在は、都合のいい女でしかないわよね。自分の思い通りになるバカな女ってところかしら? 彼女という名で縛っておけば、離れることはない。浮気をしようと心が痛むことすらなかったのでしょうね。だから、あんな酷い振り方だって出来た。少しでも私を愛してくれていたなら、誕生日当日に浮気相手を伴って別れを切り出すなんて、そんな酷いこと出来なかったはずだわ」
「いや、あれは……、あの女にせがまれただけで、本当は別れるつもりなんてなかった」
「もう、いいのよ。私もやっと目が覚めた。もう金輪際、私に関わらないで。連絡もして来ないで。これ以上、付きまとうなら警察へ行くわ。ストーカーされているって」

 予想すらしていなかったのか、絶句する奴の顔を見てわずかに溜飲が下げる。
 きっと、拒絶されるとは思っていなかったのだろう。何でも意のままになっていた女に刃向かわれるなんて考えもしなかったに違いない。

「くくっ、ははは……、いつから、そんな口。俺に聞けるようになったんだ? 昔のお前は、俺に忠実で可愛かったのになぁ」

 言葉もなく項垂れた目の前の男が、本性を現し突然笑い出す。勝ちを確信していただけに、奴の笑い声が不安を煽る。

「鈴香さぁ、自分の立場を分かっているのか? 調子に乗りやがって。こっちには手札が残っている事、忘れた訳じゃないよな。あんな写真だって、使い方によっては、いくらでも利用価値が出る。相手の男、お前の上司だろう? 確か、課長だっけ。しかも入江物産の田ノ上部長のお嬢さんとの縁談が持ち上がっているんだってな」
「なっ、なんで知って……」

 元彼の言葉に絶句する。
 なんで、そんな内部事情までこの男は知っているのか。嫌な予感をヒシヒシと感じる。
 黙り込んだ私に勝ちを確信したのか、目の前の男は上機嫌に話を続ける。

「しかも、鈴香のところの製薬会社と入江物産との提携プロジェクトがあるとか。確か、その窓口が田ノ上部長なんだよな」
「なんで、あんたがそんなことまで知っているのよ」
「はは、情報なんていくらでも。それに、俺は田ノ上部長と懇意にさせてもらっている。その意味、わかるよな?」
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