豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
 ヒラヒラと須藤課長と抱き合っている写真を振る奴を見つめ、内部情報をこの男に流した人物の顔が頭に浮かび、苦い想いが心に広がっていく。
 須藤課長の縁談話を知っているのは社内でもごく一部、そしてその相手が田ノ上部長のお嬢さんだと知る者は社内にほぼいない。そして、吉瀬美沙江は、田ノ上部長の秘書。あの女は、どうあっても私と言う存在を排除したいのだ。だから、元彼に情報を流し、間接的に私を排除しようとした。

「なぁ、困るのは俺じゃない。田ノ上部長がこの写真を見たらどうなるかな? さぞかしお怒りになるだろうよ。入江物産との提携話だってなくなるかもしれない。大損害だよな。そこを鈴香の返事一つで、この写真を無かった事にしてやろうっていう俺の温情を逆手に取りやがって、何様のつもりだ? ストーカー? 警察に行く? 笑わせんな! 上司の男共々、破滅させることだって出来るんだぞ」

 ひどい、ひど過ぎる……
 嘲笑を浮かべる奴に言い返すことも出来ないなんて、自分の不甲斐なさに吐き気すらする。こんなゲス男の脅しに屈するしかないのだろうか。

「悪い事は言わない。意地張ってないで戻って来いよ。この写真を使って、お前を思い通りにしようなんて考えていない。ただ、恋人同士に戻りたいだけなんだ」

 項垂れ、視線を落とした先の一枚の写真が私を追いつめる。
 負けを認めるしかないのだろうか……
 こんな些末な事に課長を巻き込む訳にはいかない。昇進が期待されている彼の足を引っ張るなんて出来ない。ただ、目の前の奴の言葉に頷くことだけは絶対に嫌だ。
 元彼との関係に決着をつけ、前に進むと決めたのだ。今度こそ、自分の気持ちに正直になると。
 どうすればいいの?
 堂々巡りの思考に、焦りだけが募っていく。隣に座る男の猫撫で声が、耳を抜け麻薬のように脳を蝕《むしば》んでいく。
 奴の言葉に従うしか……

「――ひっ!?」

 目を瞑り、打開策を必死に考えようともがく私を嘲笑うかのように奴の腕が肩に回され、引き寄せられる。嫌悪感と恐怖心で勝手に身体が震え出し、衝動的にこの場を逃げ出したくなった。
 もう、いや……、助けて……

「あんたさぁ……、俺の彼女に何してんの?」

 突然、背後から放たれた威圧的な声に、反射的に振り向いた。

「お、お前……」
「――――、橘っ」
< 97 / 109 >

この作品をシェア

pagetop