大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 美空は息苦しさから逃げるように空を見あげたが、分厚い灰色の幕を下ろしたような雲に遮られ、機影も見えない。
 母は、父との結婚がきっかけで飛行機が好きになったと言っていた。
 その影響で、美空はよく空港へ飛行機を見に連れていかれた。
 どれが父の操縦する飛行機かと、機種の違いもわからないのに目を輝かせて機体を追いかけた。
 父は多忙でほとんど留守だったが、美空はパイロットの父を誇りに思っていた。
 だから美空がパイロットを目指すようになったのは、ごく自然な流れだったと思う。
 父が語る、コクピットの計器に差しこむ神々しい朝日を、宝石をちりばめたような夜景を、オーロラが空に鮮やかなショールをかける様を、この目で見たかった。
 巨大な機体を自由に操り、たくさんのお客様の笑顔を見知らぬ空へ運びたかった。

(でも、コクピットの計器にすら手が届かない身長じゃ……)

 身長の要件は昔より緩和されたとはいえ、下限がないわけじゃない。父からも何度となく聞かされていたことでもある。
 これが努力の結果だったら、まだよかった。努力する機会すら得られずに終わった事実が、美空の胸を塞ぐ。
 母の期待にも応えられなかった。

(ごめんね。わたしもなりたかったんだけど)

 小さく息をつくと、雨の前特有の匂いが鼻腔をくすぐった。
 涙は出なかった。
 涙を流すのは、きちんと努力できた人間だけに許される行為だと思った。
 


 ――意識が浮上して瞼を押し上げると、昨夜放り投げたままのスマホが目に入った。
 美空はベッドに横たわったまま、何度かまばたきした。瞼が怠い。
 仰向けになって手で触れると、目の下に濡れた感触があった。
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