大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
「ひとり娘なんだろ? 話はともかく、久しぶりの親子の時間を楽しんでこいよ」
「そうします」

 母が亡くなってから十年以上経つ。
 普段は頻繁に連絡を取り合うこともない父が、なんの話だろう。
 心当たりはないものの、それは美空の将来にも関わってくるような予感がして、胸が騒いだ。

 

 オペセンをあとにして本社ビルを出れば、モノレールで空港まではほんの数駅だ。茜色の夕日が目に染みる。
 この時間帯は、羽田空港からはため息ものの夕焼けを眺めることができる。
 父が乗った便の到着予定時刻まではまだ時間がある。せっかくだからと、美空は急ぎ足でモノレールを降り空港の第一ターミナル内を展望デッキへ移動した。

(昔は、ディスパッチャーも空港で働いてるんだと思ってたな)

 現在でも、地方空港では空港内にディスパッチャーが詰めている。だが、彼らはオペセンで作成したフライトプランを元に機長らとブリーフィング(乗務前打ち合わせ)を行い、自身でフライトプランを作成することはないといっていい。
 そのフライトプランも、昔は紙で作成していたが、現在ではすべてシステム化されている。そのため、美空もパイロットの顔を直接拝む機会はほぼない。
 空港で働くものだとばかり考えていたから、勤務場所を聞いたときには耳を疑ったものだ。
 でも、飛行機に乗務するひとたちを間近で見なくてすんで、よかったのかもしれないと思う。
 空港で働いていたら、きっと胸が苦しくなっていた。
 美空は、鈍い痛みを無視して展望デッキに出る。視界いっぱいに、空を焦がすような夕焼けが広がった。
 吸い寄せられるように、フェンスの手前まで足を進める。
 滑走路へ今まさに着陸しようとする飛行機もあれば、お客様の搭乗が完了したようで、誘導路へとプッシュバックされていく機体もある。
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