大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
「あー……」

 遅延と書かれた便がいつ飛ぶにせよ、朋也たちが空港内オフィスから移動するのは、美空の出勤後になりそうだった。
 またしばらく、朋也の顔を見る機会はなさそうだ。美空は肩を落とすと、すごすごと引き返す。
 しかしこれで諦めたわけではない。意思を固めるまでには時間がかかるが、一度心を決めれば行動は早いほうだ。
 その日、勤務が終わると、美空は帰り支度をするのももどかしくスマホを開いた。
 朋也が限定免許を持つB737は主に中、近距離路線で使用される機体なので、朋也の乗務も国内線およびアジア路線が主になる。
 しかし今朝、朋也が乗務した便はB787のヘルシンキ行きだった。
 つまり、朋也はいつのまにかB787の限定免許も取得していたということになる。
 副操縦士としての乗務を開始した年齢を考えれば、かなり早い。

(沖形さんは、どんどん先へ進んでいく……)

 パイロットにはなれず、いまだに半人前のわが身を思うと、言い知れない焦りが湧いてくる。
 だがそれは、以前のような拒否感からくるざわつきとは違うざわめきだった。

【ご無沙汰しています。実は直接お話ししたいことがあって……少しでいいので、お時間もらえませんか?】

 打っては消し、打っては消しを繰り返して送った文章は、どう見ても堅苦しい。苦笑して、美空はスマホを閉じた。
 それでも、このまま終わらせたくない。

(あ……以前、沖形さんが言ってたのとおなじ)

 駅へと歩きながら、美空はもう一度話ができますようにと心の内で願った。


 
 翌日の夕方。職場でモニターをにらみながらマスクの下で咳きこむと、瀧上がいぶかしんだ。

「風邪か?」
「いえ、まだ違います。ただ空気が乾燥して、喉がいがらっぽいだけです」

 美空は眉を寄せて喉を押さえつつ言い張る。
 実際には朝から調子がおかしい気がしていたが、そんなことは口にできない。オペセンでも、先輩社員が子どもの発熱などで早退したり休む日が増えてきている。
 人手が足りていない現状で、美空まで休むわけにはいかない。
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