大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
「『まだ』って……どこで意地を張ってるんだ? 最近、根を詰めてたから疲れが溜まったんじゃないか? 今日はさっさと帰れよ」
「ありがとうございます。そうします……と言ったそばから、不穏な予感です――」

 気象図を映したモニター上に、表示をしている。
 飛行機にとってはなによりも避けなければならない、積乱雲の発生だった。夏によく見られる入道雲もこれにあたるが、冬は日本海側で発生しやすくなるのだ。
 美空はさっそく衛星通信で影響が見込まれる国際便の機長に連絡を取る。
 迂回や高度変更の提案を含む手配を終えたときには夕食も取り損ねており、美空は頭をぼうっとさせながらオペセンをあとにした。
 帰宅途中にスマホを確認したが、朋也からの連絡はなかった。



(あー……まずかったな……一昨日コートも着ずにうろうろしたせいかも)

 翌日、体の怠さは軽くなるどころかいよいよ悪化していた。頭痛はないが、体の関節が鈍い痛みを訴える。それに咳も悪化している気がする。
 美空は出勤前にコンビニへ立ち寄り、マスクと栄養ドリンクを買う。
 決済のためにスマホを取り出したスマホの画面に、メッセージの受信通知を見つけた。朋也からだ。

【いいよ】

 返信が来るまで気を揉んでいた美空は、ポップアップを見て安堵の息をついた。勤務が終わったら都合のよい日を聞こう。
 そう決めてどうにか夜勤を乗り切った美空だったが、明け方どうやって帰宅したのか記憶にない。
 意識が浮上したときには、リビングの床で倒れるように寝ていた。

「ごほっ……う……」

 全身が怠い。寒気がする。風呂にも入らず、メイクすら落とさずに寝てしまったらしい……とぼんやり考えたところで美空は跳ね起きた。とたんに脳みそが揺れるような感覚を抱く。
 腕時計を確認し、オフの日だと気づいて胸を撫でおろす。かたわらには脱ぎ捨てたコートとバッグが放り出されたままになっていた。

「うっ、ごほっ……う……?」

 もう夜、とつぶやきかけたが、声が出ない。
 美空は青ざめた。本格的に風邪を引いてしまったようだ。しかし明日は早番なのに、これでは仕事にならない。
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