大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
 額に手を伸ばされかけ、美空は反射的に両手を突き出して顔を背けた。しかし朋也はその両手をつかむと、身を乗り出して美空の顔を覗きこんできた。
 びくりと震える。
 逃げるまもなく額が触れ合った。ひんやりとした感触に、心臓が否応なしに跳ねる。

「熱は……さっきよりは下がったかな。けど、まだ油断できないね」

 手を振りほどこうと身をよじるが、つかまれたままびくともしない。美空は焦った。
 イレギュラーな事態に、頭が猛然と回りだす。頭痛は引いていたが、ぶり返しそうだ。

(沖形さんに移すくらいなら、廊下で寝てたほうがマシ)

「離れ……っ、風邪、が」
「俺のことなんかいいから、治すことに専念して。美空の風邪を俺がもらってあげるのがベストだけど、残念ながら年二回の身体検査をクリアするために体を鍛えてるから、移らないよ」

 冗談めかした口調は、美空の心を軽くするための気遣いだろう。
 それでも安心などできない。美空は弱々しく朋也を押し返したが、次の瞬間朋也に抱き寄せられた。
 暴れる美空を押さえるためか、朋也の腕に力がこもるのがわかる。朋也の胸はまるで美空のためにあつらえたかのようだった。小柄な美空はすっぽりと収まってしまう。
 頭が真っ白になった。
 いつのまにか当然のように名前を呼ばれていることも、抱き寄せられたのも……いっそ夢だと言われたほうがしっくりくる。

(ほんとうに夢なんじゃない……?)

「それなりに鍛えてること、理解できた?」
「っ、う、わかっ、離し……」

 美空はとにかくこの状況から抜け出したい一心で、こくこくとうなずく。
 女性とは違う硬さを持つ朋也の体を意識すると、たまらない気持ちになった。下がってきたはずの熱がみるみる上がってしまう。
 なおも朋也の胸に手をついて身じろぐと、やっと朋也が体を離した。美空は喘ぐように呼吸を繰り返した。
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