大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
(わたしは、沖形さんにもっといてほしいと思ってるの……?)

 朋也の服の裾から離した手に視線を落とす。
 心音が、とく、とく、とあまりに大きく響くから、朋也にまで聞こえているのではないかと不安になる。
 美空は困り果てて朋也を見あげたが、朋也は別の意味にとらえたらしかった。

「いや、さすがに病み上がりを襲う気はないから安心して。おとなしく養生しているか、見にくるだけ」
「ごほっ、なにを言っ……!」

 襲うという言葉によけいな想像をしてしまい、美空は咳きこんだ。マスクをしていてよかった。朋也が小さく笑う。

「女性は気にするかと思ったんだ。で、どうする?」
「えっ……じゃあ……その、お疲れでなければ……」

 肯定したあとで、美空ははっとした。
 朋也に来てほしいだなんて、病気で気が弱くなったせいに違いない。
 届かなかった夢を思い出させられて、あんなに苦手だったのに。近づきたくないと思っていたのに。
 自分で自分がわからない。
 違う、薄々は気づいていた。
 これがどんな感情によるものなのか。
 しかし、美空にはまだその正体をたしかめる勇気はなかった。

(沖形さんを誤解していたことを思うと……こんなに献身的に看病してくれるのも、深い意味なんてないのよね。きっとそう、弟さんと重ねてるとか)

 だがそう思う心と裏腹に、朋也の返事にほっとする自分がいる。
 知らず息をつくと、ふと長い指が美空の顎をすくった。なに、と思うまもなく、うながされるまま朋也を見あげる。
 朋也が顔を寄せてきて、美空は目をみはった。
 心臓が緊急事態を訴えて、激しく脈を打ち鳴らす。なのに、美空は目を逸らせなかった。

「来るよ。眠りの邪魔はしないけど、待ってて」

 マスク越しに、やわらかな感触が唇をかすめたと気づいたのは、朋也が帰ってからだった。
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