大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
「とにかく、ひどい言いがかりでした。それを謝りたかったんです。しかも誤解とか……ほんとうにごめんなさい」
「ああ、それで連絡をくれたんだ。かわいいな」
「かわっ!? どうしてそうなるんですか。今はそんな話してないですよね?」
「そう? まあ、俺はそう思っているというだけだから」

 朋也は美空と言い合いをする気はないと言わんばかりに、話を収めてしまう。
 だが美空にとっては、かわいくなんてないと否定する機会を逸してしまったも同然だった。
 複雑な気分になったが、うどんは変わらず体の隅々にまで染みる美味しさだ。完食するころには、体もだいぶ回復している。気力も持ち直したようで、美空はマスクをつけ直す。
 なにもかも朋也のおかげなのは、否定のしようもない。
 風邪で臥せる前に感じていた、どうしようもないもやもやとした気分も、いつのまにか晴れていた。
 久しぶりにすっきりとした気がする。風邪を引いたのも、疲れだけのせいではなく、心が不安定だったからかも知れなかった。
 美空の変化を感じ取ったのか、ソファに座った朋也が満足そうにして腰をあげた。

「その様子ならひと安心かな。そろそろ俺は帰るよ」
「えっ」
「ん?」

 朋也がよろめきかけ、自身の腰の辺りを見おろす。
 そのときになって美空は気づいた。いつのまにか朋也のカットソーの裾を握っていたことに。

「いえっ、なんでも。……明日は仕事ですよね。忙しいのに……色々とありがとうございました」

 とっさに心細さが声に出たのを隠すべく、美空は慌てて手を離した。
 湧きあがる羞恥で顔を背けた美空だったが、表情が曇ったのを朋也には見抜かれたらしかった。
 朋也が静かに見おろしてくる。

「美空は明日も休むよね? 夜遅くなってもよければ様子を見にくるけど、どうする?」

 普段よりわずかに熱っぽい目が、ひたりと美空を射抜いてくる。美空の内心を見定めようとするかのようだ。
 心臓がやたらと激しく騒ぎだした。
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