もう一度 恋をするなら
 私はそういうタイプではなかった、ということだ。結局私たちはそれ以上の関係になることなく――なんと翌月には別の同僚と彼は付き合っていた。悩んだ私が馬鹿だった、と呆れたものだけどほっとした。ちょっと身軽過ぎないか、と思ったけれど、誰もが恋とか愛とかを最初から自覚して関係を育むわけじゃない。彼は自分に合うだろう人間を選んでいて、これから付き合ううちに信頼関係を築いて恋に、愛に変わっていくタイプなのだ、きっと。

 とにかく、その一件があってから外科病棟での勤務は居心地が悪かった。彼と付き合い始めた彼女が、私にライバル心を燃やしてしまったのだ。どうやら、彼が何度も私を誘っていた意図をわかっていたらしい。なんとなく気づいていたらしい周囲も、どちらの肩を持てば良いかで困ったと思う。
 なので、かつてお世話になった内科部長が異動の打診をしてくれたのは本当に良いタイミングだったのだ。渡りに船とばかりに、前のめりで『がんばります!』と返事をした。

「まあ、いろんな人がいるけど。恋愛事で揉めた人間関係よりはずっと。そっちは相変わらず?」
「うん、まあ。でもあの子はちょっと大人しくなったかな。……燈子が異動したからだろ、と思うと剛腹だけど」

 雪ちゃんはちょっと顔をしかめてから、ランチプレートのクリームコロッケを口に運んだ。
 これからも四階で働く雪ちゃんが、いつまでも私の味方をしていてはきっと気まずいだろう。周囲の雰囲気に合わせていくしかない部分が多いと思う。今みたいに、私のことを気にかけてくれるだけで充分だ。

「あつっ……! そうそう、実はちょっと面白いことがあったのよ」

 熱すぎたクリームコロッケを冷ますことにしたらしい、雪ちゃんは箸で残りのコロッケをふたつに割っている。

「面白いこと?」
「帝生製薬のMRが、今日ふたりで来たの。担当が代わるからって」
「あ、そうなんだ」
「その新しいMRが、医師だけでなく看護師にまで丁寧に挨拶してくれてね。それがすっごいイケメンで、話し方も丁寧だし好感度良くって。若い女の子たちがポーっとなっちゃって」

 一応、私たちもギリ二十代なのに、その言い方にくすっと笑ってしまう。彼女の言う若い子たちとは多分看護師なりたてニ、三年の子たちのことだろう、多分。

「で、そのポーっとなった中に、あの子もいたね」
「え」



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