もう一度 恋をするなら
「あの子ね」
この話の流れで『あの子』といえば、誰のことかわかりきっている。私に告白してくれた同僚の今の彼女だ。
「あいつもいたのに笑っちゃった」
「ほんとに!?」
それは、ちょっと見たかったかもしれない。私に嫉妬して毎日嫌味をいうくらいだったから、意外だった。まあ、彼氏がいてもそれはそれというやつか……だけどその場に彼氏がいるのにその状況というのは驚きだ。
「順番に各科の医師に挨拶に回ってるみたいだから、そっちにも近いうち行くんじゃないかな? とにかく良さそうな人ではあったよ。真面目そうだし。というか堅そう? あいさつ回りだから当然笑顔なんだけど、ヘラヘラした印象ではないし。寧ろ、新職員歓迎会の幹事の子たちが、張り切って誘った途端に塩対応されてて笑った」
「あはは! 新歓に誘ったの⁉」
「新担当なんだから是非ってさ。ちょっと無理ある、と思ってみてたら、途端に笑顔が引っ込んで『そういう場はお断りしております』って。彼女とかいるんだろうねきっと」
「へえ! 楽しみにしとこ」
職場での人間関係は波風が立たないに限る。誘われて塩対応したというところに好感が持てた。内科部長に挨拶に来るなら、今日か明日辺りだろうか。
「しといてしといて。そっちでもキャアキャア言われてどんな様子だったかまた教えてよ。ユギさんって人ね」
その名前を聞いた途端、突如ちりっと胸の奥に痛みが走った。
久しぶりに耳にした、懐かしい響きだ。漢字はなんだろう、『柚木』だろうか、それとも『弓木』だろうか? 少し珍しい姓ではあるけれど、まったくいないわけじゃない。
――そう、いないわけじゃない。だから、期待するな。
「燈子?」
名前を呼ばれて我に返る。名字を聞いた途端に、固まったままぼんやりとしてしまっていた。
「あ、ごめん。ぼけっとした」
「ええ? 会話の途中で? イケメンに興味無さ過ぎじゃない?」
雪ちゃんに笑われて、私も笑って誤魔化した。