もう一度 恋をするなら

 そんな会話をした直後だったものだから、五階病棟に戻って驚いた。
 ナースステーションに入ってすぐに看護師たちが、その話題で盛り上がっていたからだ。

「やばい、すごい、かっこいい」
「めっちゃ足長くなかった? 私の腰くらいから足生えてなかった?」
「いやそれは言い過ぎじゃない? っていうかちょっと、戻ってきたら新歓誘ってみようよ! 誰か突撃して!」

 四階病棟の看護師たちと同じ道を辿ろうとしていることに、ちょっと笑ってしまいそうになる。どうにか堪えて、わかっているけど敢えて聞いてみた。

「何かあったの? というか交代でお昼行ってね」
「今井さん! 帝生製薬のMRが担当代わるらしくって、新しい担当、すっごいイケメンなんですよ!」
「ついさっき笹井先生と一緒に来て、今看護師長室でお話されてます」

 交代でお昼に、という私の言葉は見事にスルーされてしまった。笹井先生とは、内科本部長で私に声をかけてくれた内科医だ。五十代で白髪交じりの、ちょっと丸い体系の穏やかな先生で患者さんにも人気がある。察するに、先に笹井先生がいる医局に行っていたのだろう。

「そうなんだ。誰かお茶は持っていった?」
「私が行きます!」

 数人が一斉に挙手した直後、ナースステーションのドアが開く。笹井先生が出てきたのだが、その後ろに随分と背の高い人の頭が見えた。

「笹井先生、お疲れ様です」
「ああ、今井さん。お疲れ様。ちょうどよかった、今からみんなに紹介しようと思って」

 心臓がうるさい程に忙しなく鼓動する。笹井先生の身体が横にずれて、緊張しながらその後ろの人物にゆっくりと目の焦点を合わせた。紺色のスーツに身を包む、その立ち姿は確かに背が高くて足も長く、スタイルがいい。品のある明るい色味のネクタイ、広い肩幅。視線を更に上へと進めて、その頃にはもう、彼が誰だか確信していた。
 短めの黒髪を、サイドはきっちりと撫でつけてある。切れ長の目が思い切り見開かれて、私と目が合った。

 ――高校二年の時だったから……十二年ぶり?

 すっかり大人の男性となっているものの、すぐに『彼』だとわかってしまった。驚いた顔をしているので、彼も私が誰か気付いたようだ。
 目が合うまで、時間がひどくゆっくりと流れていたように感じた。笹井先生は私たちの様子に気付いていなかったから、実際には多分一瞬だったんだろう。

「彼、帝正製薬の弓木くん。新しいうちの担当」

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