もう一度 恋をするなら
 みんなが注目している方向、この会場の出入り口へと私も自然と目を向けて驚いた。そこに遅れてきた笹井先生と隣に弓木くんも一緒にいたからだ。
 遠目だからどんな表情をしているのかはわからない。が、笹井先生と同じようににこやかに挨拶をするでもなく、まっすぐにこちらへ向かって歩いてくる。弓木くんの隣に立って先導しているのは、中川さんだった。近づいてくると、彼女はやたら得意げな表情をしているのがわかる。

「笹井先生、こちらです」

 柳川瀬さんが立ち上がって片手をあげる。それから、私の横にふたつ並んで空けてあった席を手で示した。

「お疲れ様です、すみません。先にはじめさせていただきました」
「いや、悪い悪い、遅くなって。弓木くんと話してたからね。弓木くん、ほら隣に座りなさい」

 弓木くんは多分無理やり連れてこられたんだろう。困惑した表情ではあるが、頷いた。笹井先生が私の隣で、彼はその向こうに座る。中川さんは弓木くんの横、時任先生の場所が空いていたのでそこに座ってしまった。

「……あ」

 思わず声に出してしまったが、中川さんは時任先生のグラスをさっさと遠くに避けて中央においてある新しいグラスをふたつ手に取り、そのひとつを弓木君に手渡す。

「どうぞ、弓木さん」
「……どうも」
「柳川瀬さん、タブレットくださあい」

 そう言いながら返事も聞かずに柳川瀬さんの手からタブレットを取り上げた。まあ、ワインはオーダーし終えた後だからいいのだが、柳川瀬さんもあっけにとられていた。

「時任先生の席、どうします?」

 小さな声で柳川瀬さんに尋ねる。弓木くんが座ったところが中川さんの席だったのだから、強引に連れてこられた様子の彼にそれを気づかせるのも申し訳ない。

「欠席者あったからそれは問題ない。研修医枠のとこで席空いてるから。それにしてもあからさますぎない? 引くわぁ」

 中川さんは「何を飲まれますか? 私、カクテルおいしそうで迷っちゃいます」なんて言いながらちょっと弓木くんに肩を寄せたりしてる。タブレットを一緒に見ようという考えだろう。が、それは周りが見えてないにもほどがある。

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