もう一度 恋をするなら
 そんな時にあんな風に助けられては、うっかり心の奥底の残り火がチリチリとし始めてしまう。私が好きになった彼は、根っこは何も変わっていないと感じて嬉しかった。

「さっと諍いに割り込んで、会話だけで相手を宥めて助けてくれるスマートさ。今日ので一層人気爆上がりだと思うわきっと」
「中川さんに会うのが怖いなあ。絶対なんか言われそう。そういえば中川さんってまだ?」

 彼女も幹事のひとりだったはずなのだが、この場にいない。今日は彼女も日勤だったのでてっきりスタートからここにいるものだと思っていた。

「ああ、笹井先生が遅れてるでしょ? 先生待ってから一緒に来るの。笹井先生方向音痴だから」
「そういえばそうだった」

 私が新人だった頃の飲み会でも、よく笹井先生が迷子になって幹事が迎えに行っていた。

「病院すぐそこなのにね」
「普段車だから駅使わないらしいし。余計じゃない?」
「笹井先生、スマホのナビとか使わなさそうだし」
「未だに時々スマホの使い方教えてくれって言われるもんね。病院の端末も苦手だって」

 よく『年寄りにこんなもん持たせんな』とぼやいていたのを思い出した。
 料理がテーブルいっぱいに並んだ頃に私は一度席を立って、薬剤師や看護助手の集まるテーブルを順に回り簡単に挨拶をした。時任先生はなかなかテーブルに戻ってこないと思ったら医師の集まるテーブルで捕まっていた。多分お酒が進んだ頃には、みんな席を移動して適当に交流しはじめるだろう。
 元のテーブルに戻ると柳川瀬さんがオーダー用のタブレットを開き、ドリンクメニューを見ていた。

「何飲むんですか?」
「どうしようかなーと思って。イタリアワインおいしそう」
「あ、いいですね。私も飲みたいかも」

 オッケー、と言いながら彼女の指がオーダーを完了するのを見届けた時、ふいに会場が騒めいた。何かと思い顔を上げると、みんな一方を見つめて特に若い女の子たちが急にそわそわとしているのが見えた。

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