もう一度 恋をするなら

 幼馴染の高田莉子(たかだりこ)は私と同級生で、小学校から私が高校二年で転校するまで同じ学校に通っていた。クラスが別れると一度疎遠になったり、クラス替えで一緒になるとまた仲良くなったり。ついては離れての繰り返しだったが付き合いの年数だけは一番長い。再会したのは高校卒業間際の頃で、以来定期的に連絡をとり、年に一度くらいのペースで会っている。

 同じ大学に通っていた男性と東京で再会して、その後付き合っていることは聞いていたが、彼女はこの春三十代を目前にして遂に結婚することを決めた。憧れのジューンブライドだ。結婚式は親族向けに地元の教会で挙げ、別の日に現在住んでいる東京都内で友人と職場関係を主に披露宴を開くそうだ。ゲストに気兼ねなく楽しんでもらえるようにとその方法を選んだらしい。

 私が招待されたのはその披露宴だ。フレンチレストランを貸しきって行われる。お色直しは一度だけにして予算を抑えて、料理を豪華にしたから是非来て、と楽しそうに話してくれた。

「きっときれいだろうな。楽しみ」

 楽しみではあるけれど、やっぱり羨ましいと感じた。私にも人並み程度には、結婚への憧れがある。だけど同時に、自分には無理かもしれないと諦めていたりもする。
 両親は私が物心ついた頃には既に不仲の状態だった。ふたりが仲良くしているところを、私は見たことがない。父が地方へ転勤になったのをきっかけに長期別居となり、その末に母の不倫が発覚して修羅場となった。
 そんな状態だから結婚に憧れなんて……などということはなく、むしろいつか誰かと結婚してごく普通の家庭を持つのが夢だった。その代わり、理想の家族像はどこか虚像やおままごとのようで、現実感がなかったりする。
 残念ながらその夢は、叶う気配が一向にないのだけれど。その日を迎えることのないまま予定もないまま、今年三十代に突入することとなりそうだ。

 ――彼氏いない歴、生まれてからずっと更新中だもんねえ。

 いないものは仕方がない。縁がないものはしょうがない。気を取り直してスマホの時計表示を確認する。それから、ロッカーの内側にある鏡を見て身支度チェックをした。
 背中近くまで伸びてきた黒髪は、後頭部の真ん中辺りでヘアゴムでまとめてある。前髪も伸びてきたので、ヘアピンで止めた。そろそろ美容室にいかなければいけないかも。アイメイクはベージュ系のナチュラルメイクで、リップも淡い色のマット系。全体的に地味な出来だけど、医療現場なのだからこれくらいでいい。白地にブルーのラインが入ったナース服は、汚れもない。
 よしOK、とロッカーの扉を閉めて、ふっとため息が零れた。

「結婚、憧れはあるんだけどなあ」

 ロッカールームが無人でよかった。思いのまま愚痴ることができたから。

< 3 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop