もう一度 恋をするなら

 院内には複数の職員食堂の他に、患者さんも使えるカフェテリアなど数店の飲食店がある。職員食堂に関しては、配属先のある棟の食堂を使う決まりとなっていた。
 長テーブルに三人並んで座り食後のお茶を飲んでいると、右隣から盛大なため息が聞こえた。

「あー、午後からだるい」

 時任先生が憂鬱そうにぼやきながら、片手でお茶のカップを揺らしている。

「そういえばさっき聞き損ねたんですが、午後はどこですか?」
「内視鏡。俺が主治医になってる患者を内視鏡部長にお願いしてるからさ、いかないとなあ」
「時任先生はされないんです?」
「俺もするけど、今回はちょっと処置が必要になりそうなんだよな」

 自信なさげな様子を見て、患部の切除とか静脈瘤だとかの処置だろうかと想像する。そういえば内視鏡による施術が苦手だと以前言っていたのを聞いた。

「先生、やらないと上達しませんよ」

 同じことを考えていたのか、私の左隣に座る柳川瀬さんからそんな檄が飛ばされた。

「わかってます、ちょっとひよっただけだろもう」

「怖いと思えるのは良いことだと思いますよ。それだけ真剣に向き合ってるってことですし」

 正直、研修医で一番怖いのは自分の力量を過信することだ。やらないと上達しないのは確かだが、自分の弱みを理解して上の者に手伝いを依頼できる素直さは、利点だと思う。
 時任先生に向かって励ましの意味を込めて頷くと、彼は感動したように両手を組み合わせた。いちいち仕草が芝居がかっているな、と苦笑いをしてしまう。まあ、似合っているのでそういうキャラクターなのだと思っておこう。

「はー。今井さんが優しい……それに引き換え……」
「ん? なんですか? なにか言いました?」

 年代は違うけれど、このふたりは中々息が合っている。


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