[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
「彼女、今まで兄ちゃんが遊んできたタイプとは明らかに違うよな?」
仁がニヤリと口角を上げて笑う。
即座に否定の言葉が出てこなかった。違う、と言い切ってしまうのが惜しい気もしたし、かといって肯定するのも癪だった。
それに何より、『遊んできた』という言い方が、今になって妙に生々しく胸に残る。事実ではあるが、今この場で改めて突きつけられると、少しだけ居心地が悪い。
こいつは昔から、俺の女性関係を一番よく知っている。こういう時が一番厄介なんだよ。
……けど、口が硬い。
だからこそ、信頼できる。
俺たち三人――涼介を含めた『ゲストリオ』は、そう呼ばれている。
過去の女性関係では、ことさら結束が固かった。互いの失敗も、軽率な夜も、面倒な後始末も共有してきた。
だが、感情までは共有しない。
そこに踏み込まないという暗黙の了解が、長く続く関係を保たせてきた理由でもある。
だからこそ、今こうして仁に見抜かれている状況が、少しだけ想定外だった。
「彼女、見ていたらさ。姫ちゃんと鈴音ちゃんに似てるって思ったんだ。雰囲気とか」
姫ちゃんとは雅の妻、美愛ちゃんのこと。
高校時代に雅が迷子の幼い彼女を助け、『お姫様みたいな子』と言ったのが始まりだ。
美愛ちゃんは外見も内面も柔らかい。優しくて、まっすぐで、どこか触れたら壊れてしまいそうな雰囲気を纏っている。
そして鈴音ちゃんは、涼介の一回り年下の奥さんだ。
「やっぱ兄弟だな。雅と京兄は、同じタイプに夢中になるんだよな」
図星だ。
そう言われて、初めて自覚した。自分が無意識に惹かれてきたものの存在が、はっきりと浮かび上がる。
派手さはないが、芯があって、押しつけがましくない。守られることに慣れていないくせに、誰かを思いやることだけは自然にできるタイプ。
小宮さんも、真面目で男慣れしていない雰囲気だった。ズケズケと自分を売り込むような女性じゃない。真っ赤な口紅やキツイ香水とは無縁の彼女。
そういうタイプを、俺はこれまで無意識に避けてきたはずだった。気軽に遊んでいい相手じゃないから。
それを認めたくない自分が、少しだけ面倒だった。
その一言が胸の奥をかすめた時、仁がふと真顔になる。
「実はさ、小宮さんの左薬指に、ひでえ傷があったんだ。あれ、痛かったろうな」
あの指輪の痕……。
元婚約者に無理やり奪われた時の傷に違いない。
俺は、淡々とそのことを伝えた。
「ひでえヤローがいるもんだな」
仁が吐き捨てる。俺も同感だった。
しかし、それ以上は何も聞かない。それが仁のいいところだ。信用第一のホテルマン。詮索しない仁に、俺は胸の奥で静かに感謝する。
「あ、そうだ。彼女、ミッドタウンで働いてるらしい。会社名までは聞けなかったけどな」
帰り際に、もうひとつ情報を残していった仁に礼を言った。
仁がニヤリと口角を上げて笑う。
即座に否定の言葉が出てこなかった。違う、と言い切ってしまうのが惜しい気もしたし、かといって肯定するのも癪だった。
それに何より、『遊んできた』という言い方が、今になって妙に生々しく胸に残る。事実ではあるが、今この場で改めて突きつけられると、少しだけ居心地が悪い。
こいつは昔から、俺の女性関係を一番よく知っている。こういう時が一番厄介なんだよ。
……けど、口が硬い。
だからこそ、信頼できる。
俺たち三人――涼介を含めた『ゲストリオ』は、そう呼ばれている。
過去の女性関係では、ことさら結束が固かった。互いの失敗も、軽率な夜も、面倒な後始末も共有してきた。
だが、感情までは共有しない。
そこに踏み込まないという暗黙の了解が、長く続く関係を保たせてきた理由でもある。
だからこそ、今こうして仁に見抜かれている状況が、少しだけ想定外だった。
「彼女、見ていたらさ。姫ちゃんと鈴音ちゃんに似てるって思ったんだ。雰囲気とか」
姫ちゃんとは雅の妻、美愛ちゃんのこと。
高校時代に雅が迷子の幼い彼女を助け、『お姫様みたいな子』と言ったのが始まりだ。
美愛ちゃんは外見も内面も柔らかい。優しくて、まっすぐで、どこか触れたら壊れてしまいそうな雰囲気を纏っている。
そして鈴音ちゃんは、涼介の一回り年下の奥さんだ。
「やっぱ兄弟だな。雅と京兄は、同じタイプに夢中になるんだよな」
図星だ。
そう言われて、初めて自覚した。自分が無意識に惹かれてきたものの存在が、はっきりと浮かび上がる。
派手さはないが、芯があって、押しつけがましくない。守られることに慣れていないくせに、誰かを思いやることだけは自然にできるタイプ。
小宮さんも、真面目で男慣れしていない雰囲気だった。ズケズケと自分を売り込むような女性じゃない。真っ赤な口紅やキツイ香水とは無縁の彼女。
そういうタイプを、俺はこれまで無意識に避けてきたはずだった。気軽に遊んでいい相手じゃないから。
それを認めたくない自分が、少しだけ面倒だった。
その一言が胸の奥をかすめた時、仁がふと真顔になる。
「実はさ、小宮さんの左薬指に、ひでえ傷があったんだ。あれ、痛かったろうな」
あの指輪の痕……。
元婚約者に無理やり奪われた時の傷に違いない。
俺は、淡々とそのことを伝えた。
「ひでえヤローがいるもんだな」
仁が吐き捨てる。俺も同感だった。
しかし、それ以上は何も聞かない。それが仁のいいところだ。信用第一のホテルマン。詮索しない仁に、俺は胸の奥で静かに感謝する。
「あ、そうだ。彼女、ミッドタウンで働いてるらしい。会社名までは聞けなかったけどな」
帰り際に、もうひとつ情報を残していった仁に礼を言った。