[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
熱を鎮めようと、デスクの上のミネラルウォーターを一気に飲み干す。冷たさが喉を伝い、少しだけ我に返った。

ファイルによれば、彼女は30歳。つい最近、契約社員から正社員になったばかり。そして、この伊乃国屋に勤務している。

まさに、灯台下暗し。

住所や電話番号も見られたが、目を逸らした。そこまで踏み込めば、本当に一線を越えてしまう。

……すでに、職務の境界線上にいるのは確かだが。



あの日と今日の彼女の様子を見る限り、俺のことを『あの夜の男』としては思い出していないようだ。彼女の名前と職場を知った今、焦って下手に動く必要はない。



社長室の窓の向こう、夜のミッドタウンが青白く、いつも以上に輝いて見えるのは気のせいか。

10月の風は少しだけぬるく、街の灯がまるで記憶を撫でるように揺れていた。

……さて。

偶然を装うのは得意だ。問題は、どこまで自分を誤魔化せるか、だな。
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