[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
玄士叔父さんにメッセージを送ると、すぐに折り返しの電話がきた。すでに秘書の本間から、プレゼン内容と会議記録、録音・録画データを受け取っているらしい。

驚いたことに、叔父さんは俺が頼むより先に、あの二人の調査を始めていた。

――さすがだ。
情報屋・烏丸一族は、仕事が早い。

「おい京。おまえの悪い顔が目に浮かぶ。久しぶりだな、この感覚」

電話越しに、くぐもった笑い声が混じった。

「でも楽しみだな。あの二人が、どう堕ちていくか」



電話を切ると、高橋が意味深な言葉を残して出ていった。

「先輩なら、小宮ちゃんを安心して任せられるんだけどな」

その一言で、呼吸が一瞬乱れた。

……まさか。
あの夜のことを察している?
いや、そんなはずはない。

即座に否定する。

そうでなければ困る。

デスクに戻り、書類に目を落とす。余計なことを考えず、思考を仕事に戻すには――それで十分なはずだった。



平井フーズの再来社が決まったのは、翌週の月曜。

その前に、調査報告が届いた。

矢部研二。社内でも、以前から問題視されていた人物だ。

・人を見下す態度
・部下への丸投げ
・女関係が派手で、複数と関係
・特に小宮真帆子とは5年交際し、婚約
・だが白川麗華との浮気が発覚し、3週間前に一方的に破棄
・その翌日、白川との婚約を社内に発表

……口の中に、吐き気を催すような後味が広がる。

彼女を傷つけた翌日に、婚約発表。まともな判断とは思えなかった。



そこへ玄士叔父さんが社長室に現れ、静かに告げた。

「今回、事前に平井フーズの社長、営業部長、人事部長に来てもらう。矢部と白川には、内密にな」

「作戦会議ってわけか」

「それと小宮さんにも、出席してもらう」

「叔父さん、それは……」

言葉を失う。あの夜、俺の腕の中で泣いていた彼女の姿が、はっきりと蘇った。もう、あんな顔は見たくない。



「彼女はすでに、涼介に弁護を依頼してある」

玄士叔父さんの視線が、まっすぐ俺を射抜く。

「おまえは――彼女を守る覚悟が、あるのか?」

鋭く、そして逃げ場のない問いだった。

……やはり、この人には隠し通せない。
俺と彼女の、一夜のことも。

「わかってるよ、叔父さん」

そう答えながら、自分の中で焦りにも似た感情が渦を巻く。

俺は、彼女に『社長』として向き合うのか。
それとも――『男』として向き合うのか。

その境界線に、すでに立っていることだけは、はっきりと分かっていた。


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