[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
「伊乃国屋は、商品だけで取引先を選ぶ企業ではありません。営業担当の人となりまで見て、信頼できる相手としか契約しません」
涼介は続けて、冷たく突き放すように言った。
「それと、小宮さんへの慰謝料の件です。
これ以上無視を続ける場合は、法的手続きを取り、給与差し押さえの上で徴収します。以上です」
二人の顔色が、みるみる失われていく。
白川は俯き、矢部は何か言い返そうと口を開いたが、しばらく言葉が出てこなかった。
「……し、失礼します」
二人は慌ただしく資料をまとめ、青白い顔で会議室を出て行った。
これから彼らを待つのは、社内処分、慰謝料の支払い、そしてこちらの把握下での配置転換だ。
季節は11月に入り、伊乃国屋は感謝祭とクリスマス準備で活気づいていた。外国人客の多い店舗では、ターキーやプライムリブの予約が殺到し、現場は慌ただしく動いている。
新たな取引先『ソーセージ&カンパニー』の商品も今月から並び、週末には試食イベントが予定されていた。
味も、品質も、人柄も、すべて信頼できる相手だ。
一方、平井フーズ側では、すでに処分が実行されていた。矢部研二は『商品品質管理部』名目で羽田近くの倉庫へ。白川麗華は、窓のない資料室へと配置換えされたと聞く。
さらに接近禁止令も出され、矢部は小宮さんに半径百メートル以内に近づくこともできない。慰謝料も、給与差し押さえという形で回収される手筈だ。
彼女を苦しめていた問題は、すでにすべて整理されていた。原因は切り分けられ、不要な要素はすべて取り除かれている。
ここまでで、処理としては十分すぎるほどだ。それ以上、この件に時間を割く理由はない。
新しい契約と、平井フーズの件も落ち着き、社長室の夜は、久しぶりに静かだった。
時間的にも、精神的にも余裕がある。それで十分なはずだった。
すべては処理された。
――そう、頭では理解している。
それでも、あの夜の彼女が何度も脳裏に浮かぶ。
指の傷。
残り香。
伏せた視線。
腕の中に閉じ込めた感触と、舌に残る甘さ。
仕事に集中している間も、それらが完全に消えることはなかった。今になって、それがはっきりとした形で戻ってくる。
彼女がホテルに残していった1万5千円は、ただの理由にすぎない。呼び出すための、都合のいい口実だ。どうせ、顔を合わせることになる。
そう考えて、俺は予定表を開いた。
涼介は続けて、冷たく突き放すように言った。
「それと、小宮さんへの慰謝料の件です。
これ以上無視を続ける場合は、法的手続きを取り、給与差し押さえの上で徴収します。以上です」
二人の顔色が、みるみる失われていく。
白川は俯き、矢部は何か言い返そうと口を開いたが、しばらく言葉が出てこなかった。
「……し、失礼します」
二人は慌ただしく資料をまとめ、青白い顔で会議室を出て行った。
これから彼らを待つのは、社内処分、慰謝料の支払い、そしてこちらの把握下での配置転換だ。
季節は11月に入り、伊乃国屋は感謝祭とクリスマス準備で活気づいていた。外国人客の多い店舗では、ターキーやプライムリブの予約が殺到し、現場は慌ただしく動いている。
新たな取引先『ソーセージ&カンパニー』の商品も今月から並び、週末には試食イベントが予定されていた。
味も、品質も、人柄も、すべて信頼できる相手だ。
一方、平井フーズ側では、すでに処分が実行されていた。矢部研二は『商品品質管理部』名目で羽田近くの倉庫へ。白川麗華は、窓のない資料室へと配置換えされたと聞く。
さらに接近禁止令も出され、矢部は小宮さんに半径百メートル以内に近づくこともできない。慰謝料も、給与差し押さえという形で回収される手筈だ。
彼女を苦しめていた問題は、すでにすべて整理されていた。原因は切り分けられ、不要な要素はすべて取り除かれている。
ここまでで、処理としては十分すぎるほどだ。それ以上、この件に時間を割く理由はない。
新しい契約と、平井フーズの件も落ち着き、社長室の夜は、久しぶりに静かだった。
時間的にも、精神的にも余裕がある。それで十分なはずだった。
すべては処理された。
――そう、頭では理解している。
それでも、あの夜の彼女が何度も脳裏に浮かぶ。
指の傷。
残り香。
伏せた視線。
腕の中に閉じ込めた感触と、舌に残る甘さ。
仕事に集中している間も、それらが完全に消えることはなかった。今になって、それがはっきりとした形で戻ってくる。
彼女がホテルに残していった1万5千円は、ただの理由にすぎない。呼び出すための、都合のいい口実だ。どうせ、顔を合わせることになる。
そう考えて、俺は予定表を開いた。