[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
翌朝。
なんとか目を覚ましたけれど、吐き気と疲れは、まるで抜けていなかった。鏡に映る自分は、目の下に深いクマ。顔色は土気色で、メイクをしても隠しきれない。それでも早めに出勤の支度をしながら、心の中で思う。
休みたい。
けれど、何事もなかったふりで行くしかない。それが、今の私にできる唯一の強がりだった。
通勤電車の中で、何度も吐き気に襲われた。
途中で駅を降り、トイレに駆け込む。ミッドタウンに着く頃には、もうぐったりだった。
会社近くのコンビニに寄り、炭酸水と軽食をいくつか買い込む。食べられるかはわからないけれど、何かを口にしないと体がもたない。
ただ、店内の匂いすら気持ち悪い。思わず息を止めて、外に出た。
やっとのことで、会社のロビーに着く。
早朝のこの時間は、しんとした静けさがある。聞こえるのは、エレベーターのモーター音だけ。
エレベーターを待っていると、地下から一台の到着音が上がってきた。
チーーン。
ドアが開く。
そこにいたのは――彼だった。
ダークグレーのスーツに、オフホワイトのシャツ。ネクタイは、まだ結ばれていない。眠気を帯びた鋭い視線と目が合い、私は反射的に視線を逸らした。
会いたくなかった。
どうして、今……?
逃げようとした瞬間、低く鋭い声が氷の矢のように心臓を射抜く。
「早く入りなさい」
その声に体が強張る。次の瞬間、手首を掴まれ、強引にエレベーターの中へ引き入れられた。
「きゃっ……!」
視界が揺れ、足元がふらつく。倒れそうになった私を、彼が腕で支える。
「すまない。強く引くつもりはなかった」
「た、助けていただき……ありがとうございます」
その一言が精一杯だった。でも、言葉とは裏腹に、彼の表情は険しく、私を拒むような冷たい気配をまとっている。
胸が痛む。
沈黙。
息苦しいほど重たい空気の中で、冷や汗が額に浮かび、背中を伝う。5階に着く前に、吐き気が限界に達した。
慌てて、停止ボタンを押し続ける。
廊下にバッグとコンビニ袋を放り出し、トイレへ駆け込む。何も吐けず、ただえづくだけだった。
水で口をすすぎ、鏡を見上げる。
そこには、見覚えのないほどやつれた自分が映っていた。
トイレを出ると、彼が壁にもたれて立っていた。視線が合い、すぐに逸らされる。そして、冷たい声が落ちる。
「帰りなさい。迷惑だ」
胸の奥に、二度目の鋭い矢が突き刺さった。
彼から受け取ったバッグを抱きしめ、何も言えないまま、私は再びエレベーターに乗り込んだ。
なんとか目を覚ましたけれど、吐き気と疲れは、まるで抜けていなかった。鏡に映る自分は、目の下に深いクマ。顔色は土気色で、メイクをしても隠しきれない。それでも早めに出勤の支度をしながら、心の中で思う。
休みたい。
けれど、何事もなかったふりで行くしかない。それが、今の私にできる唯一の強がりだった。
通勤電車の中で、何度も吐き気に襲われた。
途中で駅を降り、トイレに駆け込む。ミッドタウンに着く頃には、もうぐったりだった。
会社近くのコンビニに寄り、炭酸水と軽食をいくつか買い込む。食べられるかはわからないけれど、何かを口にしないと体がもたない。
ただ、店内の匂いすら気持ち悪い。思わず息を止めて、外に出た。
やっとのことで、会社のロビーに着く。
早朝のこの時間は、しんとした静けさがある。聞こえるのは、エレベーターのモーター音だけ。
エレベーターを待っていると、地下から一台の到着音が上がってきた。
チーーン。
ドアが開く。
そこにいたのは――彼だった。
ダークグレーのスーツに、オフホワイトのシャツ。ネクタイは、まだ結ばれていない。眠気を帯びた鋭い視線と目が合い、私は反射的に視線を逸らした。
会いたくなかった。
どうして、今……?
逃げようとした瞬間、低く鋭い声が氷の矢のように心臓を射抜く。
「早く入りなさい」
その声に体が強張る。次の瞬間、手首を掴まれ、強引にエレベーターの中へ引き入れられた。
「きゃっ……!」
視界が揺れ、足元がふらつく。倒れそうになった私を、彼が腕で支える。
「すまない。強く引くつもりはなかった」
「た、助けていただき……ありがとうございます」
その一言が精一杯だった。でも、言葉とは裏腹に、彼の表情は険しく、私を拒むような冷たい気配をまとっている。
胸が痛む。
沈黙。
息苦しいほど重たい空気の中で、冷や汗が額に浮かび、背中を伝う。5階に着く前に、吐き気が限界に達した。
慌てて、停止ボタンを押し続ける。
廊下にバッグとコンビニ袋を放り出し、トイレへ駆け込む。何も吐けず、ただえづくだけだった。
水で口をすすぎ、鏡を見上げる。
そこには、見覚えのないほどやつれた自分が映っていた。
トイレを出ると、彼が壁にもたれて立っていた。視線が合い、すぐに逸らされる。そして、冷たい声が落ちる。
「帰りなさい。迷惑だ」
胸の奥に、二度目の鋭い矢が突き刺さった。
彼から受け取ったバッグを抱きしめ、何も言えないまま、私は再びエレベーターに乗り込んだ。