[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
恵子は、私の中で気持ちが少しずつ固まってきているのを、仕草から察していたようだ。
「これからのことを考えると、不安でいっぱい。一番怖いのは……彼に知られること。
中絶を強いられるかも、産んでも奪われるかもって」
「彼ほどの立場なら、あり得るかもね」
私は、小さく頷いた。
「彼、私のこと……きっと毛嫌いしてるから」
そう思ってしまう理由はいくつもあった。
冷たい言葉、距離を取る態度、視線を逸らされた瞬間。
本当は、それが全部『嫌われている証拠』だと決めつけているのは、私自身なのかもしれない。確かめる勇気がないまま、一番傷つかない答えを選んでいるだけだ。
「でも真帆子、最初は無理って思ってたのに、今は違うでしょ?」
頭に浮かぶのは、超音波に映った小さな丸い影。あれを見た瞬間、全部が変わった。
「うん、クリニックであの影を見たとき、何も考えられなくなって……」
恵子が、私の手を握る。
「一人で抱えないで。私、すぐ飛んで来るし。川向こうのご近所なんだから!」
思わず、笑ってしまう。
「まずは仕事だよね。もう今の会社、無理でしょ?」
「うん、正直、限界」
「リモートできる職場、当たってみるよ」
「ありがとう」
「退職願は転職が決まってから。言いにくければ、退職代行でもいい」
「でも、まず主任に話さなきゃ」
「妊娠のことは?」
「言いたくない。主任は彼と繋がっていると思う。大学の先輩後輩関係だし、ご主人は社長の友人……」
恵子は、少し考えて言った。
「でもそのままだと、いずれバレるよ。
つわりもあるし、早めに信頼できる人にだけでも話した方がいい」
「……そうかもね」
気持ちが、やるべきことへと少しずつ整理されていく。
「そういえば、慰謝料が一括で振り込まれたの」
「えっ? 分割のはずじゃ?」
「研二の実家と白川さんの実家からまとめて。たぶん伊集院先生が動いてくれたの」
「じゃあ、お礼ちゃんと伝えなきゃ」
「うん、近いうちに」
「で、最大の難関。ご両親には?」
「……まだ言えない。転職して落ち着いてから考える。田舎だから噂も早いし」
婚約破棄のあと、別の男の子供を妊娠してシングルに。両親には、きっと受け入れがたい現実。近所に噂が広まる前に、せめて自分の足で立てる場所を作りたかった。
「反対されるだけじゃなく、絶縁されるかもしれないって思うと……」
グッと、言葉が詰まる。
「でも今は、やるべきことがある。月曜、主任への話し方、一緒に考えてくれる?」
「もちろん!」
恵子の明るい声に、私はようやく小さく息を吐いた。
まだ、何も解決していない。
でも、独りじゃない気がした。
だから、月曜日が来るのが少しだけ怖くなくなって、きっと大丈夫だと、思えている。
「これからのことを考えると、不安でいっぱい。一番怖いのは……彼に知られること。
中絶を強いられるかも、産んでも奪われるかもって」
「彼ほどの立場なら、あり得るかもね」
私は、小さく頷いた。
「彼、私のこと……きっと毛嫌いしてるから」
そう思ってしまう理由はいくつもあった。
冷たい言葉、距離を取る態度、視線を逸らされた瞬間。
本当は、それが全部『嫌われている証拠』だと決めつけているのは、私自身なのかもしれない。確かめる勇気がないまま、一番傷つかない答えを選んでいるだけだ。
「でも真帆子、最初は無理って思ってたのに、今は違うでしょ?」
頭に浮かぶのは、超音波に映った小さな丸い影。あれを見た瞬間、全部が変わった。
「うん、クリニックであの影を見たとき、何も考えられなくなって……」
恵子が、私の手を握る。
「一人で抱えないで。私、すぐ飛んで来るし。川向こうのご近所なんだから!」
思わず、笑ってしまう。
「まずは仕事だよね。もう今の会社、無理でしょ?」
「うん、正直、限界」
「リモートできる職場、当たってみるよ」
「ありがとう」
「退職願は転職が決まってから。言いにくければ、退職代行でもいい」
「でも、まず主任に話さなきゃ」
「妊娠のことは?」
「言いたくない。主任は彼と繋がっていると思う。大学の先輩後輩関係だし、ご主人は社長の友人……」
恵子は、少し考えて言った。
「でもそのままだと、いずれバレるよ。
つわりもあるし、早めに信頼できる人にだけでも話した方がいい」
「……そうかもね」
気持ちが、やるべきことへと少しずつ整理されていく。
「そういえば、慰謝料が一括で振り込まれたの」
「えっ? 分割のはずじゃ?」
「研二の実家と白川さんの実家からまとめて。たぶん伊集院先生が動いてくれたの」
「じゃあ、お礼ちゃんと伝えなきゃ」
「うん、近いうちに」
「で、最大の難関。ご両親には?」
「……まだ言えない。転職して落ち着いてから考える。田舎だから噂も早いし」
婚約破棄のあと、別の男の子供を妊娠してシングルに。両親には、きっと受け入れがたい現実。近所に噂が広まる前に、せめて自分の足で立てる場所を作りたかった。
「反対されるだけじゃなく、絶縁されるかもしれないって思うと……」
グッと、言葉が詰まる。
「でも今は、やるべきことがある。月曜、主任への話し方、一緒に考えてくれる?」
「もちろん!」
恵子の明るい声に、私はようやく小さく息を吐いた。
まだ、何も解決していない。
でも、独りじゃない気がした。
だから、月曜日が来るのが少しだけ怖くなくなって、きっと大丈夫だと、思えている。