[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
日曜の夕方、私は高橋主任にメッセージを送っておいた。


『明日、個人的にお話したいことがあります。お時間をいただけませんか』そう丁寧に綴り、送信する。


そしてもう一人。伊集院涼介先生にも、これまでのお礼と慰謝料の一括入金を報告し、『この件を終わりにしたい』という意思を伝えるメールを送った。


どちらからもすぐに返事が来て、高橋主任とは月曜の終業後に、少し離れた喫茶店で。
涼介先生とは翌日の火曜、お昼休みに弁護士事務所でお会いすることになった。
気が重くて、足取りが重くなる。



高橋主任が指定してくれた喫茶店は、ミッドタウン裏手の小さな商店街にある『喫茶Bon』。古き良き昭和の雰囲気を残した木製フレームのガラス扉。ドアを開けると、カランとベルの音が響いた。

店内は、ほどよい暗さで落ち着いた空間。
カウンター席の奥には数組のテーブル席があり、ガラス窓からは外の通りを歩く人々が見える。

ジャズが微かに流れていて、心をほぐしてくれる。

カウンターには、ニット帽をかぶった50代くらいの男性と、同年代の女性。どちらも笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


主任はまだ来ていないようだ。
私は窓際の奥の席に座り、カフェインレスのルイボスティーを注文する。

飲み物が運ばれてくるまでの間、今日の体調を思い返してみた。

週末に実践した“つわり予防策”が効いたのか、今日は会社でもトイレに駆け込まずに済んだ。どうやら、私の身体には『イチゴジャムのサンドイッチ』が合うようで、朝、小さくカットしたものをジップロックに入れて机の引き出しに常備しておいたのが功を奏した。

お昼はもちろん、Mナルドのポテトフライ。

でも今、また空腹で気持ちが悪くなってきた。

しまった。ジャムサンド、もうないのに。

急な吐き気に襲われ、慌ててトイレに駆け込む。

しばらくして席に戻ると、すでにルイボスティーのポットとカップが置かれていた。タイミングを見計らったように、先ほどの女性が、レモン水とひざ掛けを持ってきてくれる。


「よかったら、どうぞ」

「ありがとうございます」


彼女は、優しく微笑んで私を見つめた。


「失礼なことは承知しているけれど……もしかして、妊娠されていますか?」

「はい。お見苦しいところをお見せしてしまって」

「おめでとうございます。気にしないでくださいね。何か、食べられそうなものは?」

「えっと、ポテトフライと、ジャムサンドくらいしか。子供みたいでお恥ずかしいですが」

「ふふっ。少々お待ちくださいね」

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