[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
まあ確かに、そう考えられなくもない。けれど小宮真帆子は葵に、あの夜のことを話したんじゃないのか?
結局、口の軽い女だったってことか。
いちいち人の気持ちをかき乱して……気に障る。
うつむき加減にそう呟いた瞬間、冷たい感触が頭から肩へと流れ落ちた。目を見開いて顔を上げると、葵が空のペットボトルを握りしめて立っていた。
「ほんっと最低! 何が口が軽いよ!
あんたこそ、何も見ようとしてない!」
怒声がリビングに響く。
『あんた』呼びするってことは、どうやら葵の地雷を踏んだらしい。
「真帆子ちゃんはね、私にも文香にも、兄ちゃんの名前と会社のことも、一言も言わなかった! むしろ、関わるものすべてから距離を置こうとしてたのよ!」
その剣幕に、雅も涼介も息を呑む。
怒りの熱と、水の冷たさが一気に混ざり、頭が真っ白になった。この時、はっきりと葵の言葉の意味が理解できた。
彼女は、俺に関わるすべてから離れようとしていた?
どうしてだ?
そんなの、知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
「彼女、完全リモートの仕事を探してたの。文香が紹介したのが、たまたまうちの医院。
私が西園寺葵と名乗った途端、顔色を変えて断ってきたのよ」
葵の声はもう、怒りではなく、悲しみに変わっていた。
「優しくて、控えめで、すごく素敵な子だった。友達になれたらと思ってたのに……」
それも、俺のせいで壊れたのか。
「『西園寺』の名を出した瞬間、彼女の態度が変わった。きっと兄ちゃんのことで何かあったって、文香と私ですぐ気づいた。でも、何を聞いても頑なに名前を口にしなかった」
葵の声が震える。
「それに、あの朝の出来事を思い出して、文香は確信したの。具合の悪い彼女を心配して、早朝に帰した。それが京兄ちゃんだったって」
彼女の沈黙。
それは俺を守っていたのか?
それとも、もう関わりたくなかっただけなのか?
「兄ちゃんは、彼女の話をちゃんと聞いたの? 言い分も、気持ちも。それすらしてないなら、最低なのは兄ちゃんの方だよ」
返す言葉が見つからなかった。
あの日、彼女が何か言いかけたのを覚えている。だが俺は、聞く耳を持たなかった。
その時、涼介が静かに言った。
「……ああ、だからか。今日、彼女がうちの事務所に来たんだ」
「えっ?」
「契約のキャンセルを申し出てきた。『もう矢部と白川の監視はいらない』って。慰謝料も終わり、接近禁止令も出てる。だから契約的には成立する」
「でも、続けた方が安全じゃないのか?」
「俺もそう言ったし、これからも続けるけど、彼女『もう大丈夫です』って、無理して笑ってた」
その笑顔が、あの日の泣き顔と重なる。
「彼女、きっと俺たちの前から消えるつもりだ。伊乃国屋も辞めるんだろうな……葵、お前さっきまで彼女といたんだろ? どうだった?」
涼介の問いに、葵はふいに黙り込み、視線を逸らした。
結局、口の軽い女だったってことか。
いちいち人の気持ちをかき乱して……気に障る。
うつむき加減にそう呟いた瞬間、冷たい感触が頭から肩へと流れ落ちた。目を見開いて顔を上げると、葵が空のペットボトルを握りしめて立っていた。
「ほんっと最低! 何が口が軽いよ!
あんたこそ、何も見ようとしてない!」
怒声がリビングに響く。
『あんた』呼びするってことは、どうやら葵の地雷を踏んだらしい。
「真帆子ちゃんはね、私にも文香にも、兄ちゃんの名前と会社のことも、一言も言わなかった! むしろ、関わるものすべてから距離を置こうとしてたのよ!」
その剣幕に、雅も涼介も息を呑む。
怒りの熱と、水の冷たさが一気に混ざり、頭が真っ白になった。この時、はっきりと葵の言葉の意味が理解できた。
彼女は、俺に関わるすべてから離れようとしていた?
どうしてだ?
そんなの、知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
「彼女、完全リモートの仕事を探してたの。文香が紹介したのが、たまたまうちの医院。
私が西園寺葵と名乗った途端、顔色を変えて断ってきたのよ」
葵の声はもう、怒りではなく、悲しみに変わっていた。
「優しくて、控えめで、すごく素敵な子だった。友達になれたらと思ってたのに……」
それも、俺のせいで壊れたのか。
「『西園寺』の名を出した瞬間、彼女の態度が変わった。きっと兄ちゃんのことで何かあったって、文香と私ですぐ気づいた。でも、何を聞いても頑なに名前を口にしなかった」
葵の声が震える。
「それに、あの朝の出来事を思い出して、文香は確信したの。具合の悪い彼女を心配して、早朝に帰した。それが京兄ちゃんだったって」
彼女の沈黙。
それは俺を守っていたのか?
それとも、もう関わりたくなかっただけなのか?
「兄ちゃんは、彼女の話をちゃんと聞いたの? 言い分も、気持ちも。それすらしてないなら、最低なのは兄ちゃんの方だよ」
返す言葉が見つからなかった。
あの日、彼女が何か言いかけたのを覚えている。だが俺は、聞く耳を持たなかった。
その時、涼介が静かに言った。
「……ああ、だからか。今日、彼女がうちの事務所に来たんだ」
「えっ?」
「契約のキャンセルを申し出てきた。『もう矢部と白川の監視はいらない』って。慰謝料も終わり、接近禁止令も出てる。だから契約的には成立する」
「でも、続けた方が安全じゃないのか?」
「俺もそう言ったし、これからも続けるけど、彼女『もう大丈夫です』って、無理して笑ってた」
その笑顔が、あの日の泣き顔と重なる。
「彼女、きっと俺たちの前から消えるつもりだ。伊乃国屋も辞めるんだろうな……葵、お前さっきまで彼女といたんだろ? どうだった?」
涼介の問いに、葵はふいに黙り込み、視線を逸らした。