[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
「え? あ、うん……」
今までの勢いがなくなる葵。
人差し指で軽くトントントンと下唇を叩き、目を泳がせる。
葵が隠し事をしている時の癖だ。
「おい、何隠してるんだよ、葵?」
雅が詰め寄ると、葵は拳を握りしめて、ついに爆発した。
「う、うるさいっ! とにかく、あんたたち全員、慶智の王子のせいで迷惑してるのよ!」
「はっ?」
俺の素っ頓狂な声が、さらに怒りに油を注いだようだ。
「何が『抑強扶弱』よ! いつだって女を軽く見て。兄ちゃんが彼女にしたこと、悠士兄ちゃんが圭衣ちゃんにしたことと同じだから!」
その叫びとともに、空のペットボトルが胸元に飛んできた。葵は真正面から俺を睨みつける。
「ちゃんと向き合って。真帆子ちゃんと話して。話さなきゃ、兄ちゃんは一生後悔する。私は、兄ちゃんのこと許さない。あんたたちのせいで、今まで私がどれだけ辛い思いをしたか、考えたこともないでしょうね」
葵はそう言い捨て、静かにドアを閉めて出て行った。
部屋に残ったのは、彼女の怒気と、重たい言葉だけだった。
その沈黙を破ったのは雅だ。携帯で誰かに電話をかけ、スピーカーにした。
「もしもし、彰人? 今、葵が兄ちゃんちに来て……」
電話の向こうで、近衛彰人のため息まじりの声が聞こえる。
彼は葵の婚約者であり、幼なじみだ。
「……やっぱり限界だったんだな、葵ちゃん」
彰人の声は疲れていたが、そこには確かな優しさが滲んでいた。
彼によると、葵は中学以来ずっと我慢してきた。王子たちと家族ぐるみというだけで、周囲の女子から妬まれ、陰で傷つけられてきたという。
「僕には話してくれてたけど、結局何もできなかった。守ってあげられなかった……」
彰人が言葉を詰まらせる。
「今回もそう。京兄ちゃんが小宮さんにしたことは、葵ちゃんにとって『また大切な人を奪われた』のと同じなんだ。小宮さんは、葵ちゃんが久しぶりに友達になれそうな相手だったんだ」
部屋に、重い沈黙が戻る。
すでに酔いは消え、胃の奥が冷たく締めつけられた。残るのは、後悔と自責だけだ。
思い返すのは、あの夜の自分の言葉。
『二度と、俺の前に現れるな』
『すっかり騙されたよ』
彼女がどんな顔で、それを受け止めたか。
今なら、わかる。
俺は小宮真帆子を、そして葵を、深く、取り返しのつかない形で傷つけてしまっていたのだ。
今までの勢いがなくなる葵。
人差し指で軽くトントントンと下唇を叩き、目を泳がせる。
葵が隠し事をしている時の癖だ。
「おい、何隠してるんだよ、葵?」
雅が詰め寄ると、葵は拳を握りしめて、ついに爆発した。
「う、うるさいっ! とにかく、あんたたち全員、慶智の王子のせいで迷惑してるのよ!」
「はっ?」
俺の素っ頓狂な声が、さらに怒りに油を注いだようだ。
「何が『抑強扶弱』よ! いつだって女を軽く見て。兄ちゃんが彼女にしたこと、悠士兄ちゃんが圭衣ちゃんにしたことと同じだから!」
その叫びとともに、空のペットボトルが胸元に飛んできた。葵は真正面から俺を睨みつける。
「ちゃんと向き合って。真帆子ちゃんと話して。話さなきゃ、兄ちゃんは一生後悔する。私は、兄ちゃんのこと許さない。あんたたちのせいで、今まで私がどれだけ辛い思いをしたか、考えたこともないでしょうね」
葵はそう言い捨て、静かにドアを閉めて出て行った。
部屋に残ったのは、彼女の怒気と、重たい言葉だけだった。
その沈黙を破ったのは雅だ。携帯で誰かに電話をかけ、スピーカーにした。
「もしもし、彰人? 今、葵が兄ちゃんちに来て……」
電話の向こうで、近衛彰人のため息まじりの声が聞こえる。
彼は葵の婚約者であり、幼なじみだ。
「……やっぱり限界だったんだな、葵ちゃん」
彰人の声は疲れていたが、そこには確かな優しさが滲んでいた。
彼によると、葵は中学以来ずっと我慢してきた。王子たちと家族ぐるみというだけで、周囲の女子から妬まれ、陰で傷つけられてきたという。
「僕には話してくれてたけど、結局何もできなかった。守ってあげられなかった……」
彰人が言葉を詰まらせる。
「今回もそう。京兄ちゃんが小宮さんにしたことは、葵ちゃんにとって『また大切な人を奪われた』のと同じなんだ。小宮さんは、葵ちゃんが久しぶりに友達になれそうな相手だったんだ」
部屋に、重い沈黙が戻る。
すでに酔いは消え、胃の奥が冷たく締めつけられた。残るのは、後悔と自責だけだ。
思い返すのは、あの夜の自分の言葉。
『二度と、俺の前に現れるな』
『すっかり騙されたよ』
彼女がどんな顔で、それを受け止めたか。
今なら、わかる。
俺は小宮真帆子を、そして葵を、深く、取り返しのつかない形で傷つけてしまっていたのだ。