[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
「ところでさ、驚いたよ。さっき葵ちゃんと文香ちゃんが、小宮さんを連れてきた時は」
その一言が、静かな水面に石を投げ込むように、場の空気を波立たせた。
「えっ? 彼女、今そっちにいるのか?」
動揺が隠せなかった。声も、呼吸も乱れていた。
「――あっ! しまった……! 言っちゃった。ごめん、今のナシで。忘れて……」
彰人の慌てた声が、逆に不穏さを際立たせる。
「おい、彰人。どうして彼女が近衛病院に?」
低く抑えた声で問うと、電話越しの空気が凍りついた。
「えっ。いや……彼女にもプライバシーがあるし、あまり言えないよ。勘弁してよ、兄ちゃん」
「言える範囲でいい。教えろ、彰人」
俺の圧を感じたのか、沈黙ののち、観念したように言葉を選びながら答えた。
「うーん……貧血、かな。命に関わるものじゃないけど、かなり無理してる。今日は病院に泊まってもらうことにした」
「病気じゃないんだな?」
「違う。ただ、痩せすぎてる。これ以上落ちたら危ない」
彰人に礼を言い、会話を終えた。
『痩せている』――頭の中で、その言葉が何度も反響する。最後に見た彼女の、あの青ざめた顔が脳裏をよぎった。
俺の言葉で、静かに壊れていったに違いない。
『二度と俺に関わるな』
『すっかり騙されたよ』
反論も聞かずに、冷たく突き放した。あれは、言葉の暴力だった。
その瞬間、頭の隅に別の可能性が浮かびかけて、俺はそれを振り払うように口を開いた。
「小宮真帆子、拒食症か……?」
「はあっ?」
「へっ?」
涼介と雅が、揃って声を上げた。どうやら、口に出していたらしい。
「いや、だってそうだろ。俺があんなこと言ったから、食事ものどを通らなくなって……」
「兄ちゃん、マジで斜め上すぎるわ」
涼介が頭を抱えて、深いため息をつく。
だが俺は本気だった。あんな拒絶をされたら、誰だって壊れる。
その時だった。
「兄ちゃんさ、彼女、拒食症じゃなくて……妊娠してるんじゃないの?」
雅のその一言に、頭をガツンとやられる。
「妊娠?」
「あの夜、抱いたんだろ? それで今、体調が悪い。もしかして、つわりじゃないかってこと」
「いや、それはない。ちゃんと避妊はした。二回とも」
即答したものの、自分の声には、確信がなかった。
その一言が、静かな水面に石を投げ込むように、場の空気を波立たせた。
「えっ? 彼女、今そっちにいるのか?」
動揺が隠せなかった。声も、呼吸も乱れていた。
「――あっ! しまった……! 言っちゃった。ごめん、今のナシで。忘れて……」
彰人の慌てた声が、逆に不穏さを際立たせる。
「おい、彰人。どうして彼女が近衛病院に?」
低く抑えた声で問うと、電話越しの空気が凍りついた。
「えっ。いや……彼女にもプライバシーがあるし、あまり言えないよ。勘弁してよ、兄ちゃん」
「言える範囲でいい。教えろ、彰人」
俺の圧を感じたのか、沈黙ののち、観念したように言葉を選びながら答えた。
「うーん……貧血、かな。命に関わるものじゃないけど、かなり無理してる。今日は病院に泊まってもらうことにした」
「病気じゃないんだな?」
「違う。ただ、痩せすぎてる。これ以上落ちたら危ない」
彰人に礼を言い、会話を終えた。
『痩せている』――頭の中で、その言葉が何度も反響する。最後に見た彼女の、あの青ざめた顔が脳裏をよぎった。
俺の言葉で、静かに壊れていったに違いない。
『二度と俺に関わるな』
『すっかり騙されたよ』
反論も聞かずに、冷たく突き放した。あれは、言葉の暴力だった。
その瞬間、頭の隅に別の可能性が浮かびかけて、俺はそれを振り払うように口を開いた。
「小宮真帆子、拒食症か……?」
「はあっ?」
「へっ?」
涼介と雅が、揃って声を上げた。どうやら、口に出していたらしい。
「いや、だってそうだろ。俺があんなこと言ったから、食事ものどを通らなくなって……」
「兄ちゃん、マジで斜め上すぎるわ」
涼介が頭を抱えて、深いため息をつく。
だが俺は本気だった。あんな拒絶をされたら、誰だって壊れる。
その時だった。
「兄ちゃんさ、彼女、拒食症じゃなくて……妊娠してるんじゃないの?」
雅のその一言に、頭をガツンとやられる。
「妊娠?」
「あの夜、抱いたんだろ? それで今、体調が悪い。もしかして、つわりじゃないかってこと」
「いや、それはない。ちゃんと避妊はした。二回とも」
即答したものの、自分の声には、確信がなかった。