[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
雅と涼介は同時に無言になり、あきれた顔で俺を見た。涼介が眼鏡を押し上げながら言う。
「どんだけ盛ってんだよ。避妊って100%じゃないんだから、京兄ちゃん」
その言葉が、鋭い稲妻のように頭の中を走った。思考が一瞬で反転する。
俺が――父親に?
全身に血が巡り、鼓動が速まる。体の芯が熱くなっていく。
「俺が……父親、に……?」
「そうなる可能性は高いよ。で、兄ちゃんはどうするんだ?」
涼介の静かな問いが、重く響く。だが、不思議と心は軽かった。
彼女との子なら、もう二度と離せない。
「涼介。入籍の手続き、すぐ進めたい。協力してくれるか?」
「はあ? 兄ちゃん、ちょっと待ってよ。小宮さん、今兄ちゃんからも距離取ってるだろ?」
そうだ。彼女はもう俺を避けている。それを作ったのは他でもない、俺自身の言葉だ。
「なあ、そもそも、それって本当に兄ちゃんの子か?」
雅の冷静な疑問が、現実を突きつけた。先走っている俺を立ち止まらせる。
「彼女、婚約してたんだろ? もしかしたら――」
「でも婚約破棄前から、関係はなかったらしいよ」
涼介の補足に、沈黙が落ちる。
それでも確信は持てない。信じたいのに、心のどこかで、まだ疑っていた。
彼女の言葉を、まともに信じたことなんてあったか?
……情けない。
父親になれるかもしれないと感じた瞬間でさえ、俺はまだ彼女を疑っている。
こんな俺に、父親を名乗る資格があるのか?
「話し合いが必要だな。ちゃんと、正面から向き合わないと」
雅に続き、涼介が静かに言う。
「同席してもいい。認知するつもりなら、DNA鑑定も考えよう」
逃げられない現実だった。俺は、彼女と向き合わなければならない。過去も、誤解も、傷つけたすべてと。
けれど、彼女はもう俺に会いたくないと思っている。
次々に押し寄せる問題。気づけば、築いてきた世界が音もなく崩れていく。
悠士。
葵。
そして、小宮真帆子。
大切なものほど、気づかぬうちに遠ざかっていく。傷つけていたのは、他の誰でもない。この俺だった。
次は、誰との関係を壊すのか。
俺はこのまま、何もかもを失っていくのか。
それとも――
今度こそ、守る覚悟を持てるのか。